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サッカー選手が「結果を出す」という言い回しをよく使いますね。けれども、普通に生活している主夫にとっては、シュートしてゴール! みたいなスカッとするような結果を出すことはそうそうありません。日々の生活は地味。凪の海みたいです。

ごはん作って、学校に送り出し、仕事して、掃除洗濯、お買い物、おやつ作って、夕飯作って、寝る毎日ですから。もちろん、わたしはテレビに出たりもしますけれど、それを日常と思ったことはありません。息子と向き合うパリでの日々こそがわたしにとっての日常です。しかし、この日常の戦いこそが、サッカー選手にとっての試合と同じなんですね。単調な試合ですが、このささやかな日々のなかにも、小さな結果というものはあります。

たとえば、料理です。美味しくごはんが炊けたり、魚が上手に焼けたり、絶品の肉料理が出来たときなんかは、キッチンで「ガッツポーズ」を決めます。これはゴールとはいいませんが、サッカー選手が得点に絡んで試合に貢献するようなものじゃないか、と思うております。息子が「パパ、美味しいよ!」と言ってくれたら、なお嬉しいですね。

人生の勝利というのは、こういうことの積み重ねのうえに成り立つものです。つまり、主夫の達成感ってやつは家族の笑顔でこそ得られるものでしょう。若い頃の自分は、つねに勝つことに貪欲でした。でも、今は、自分に負けないために頑張っています。勝つのじゃなく、自分に負けない。日々の戦いというのは自分との戦いなのだと思います。主婦も主夫も日常という壮大な相手と戦っている。決してサッカー選手に負けない仕事だと思います。終わりなき永遠の試合をやっているようなものじゃないでしょうか。

でも、死ぬときに、勝利の女神が微笑んでくれるとわたしは信じております。それが日々との真面目な向き合い方じゃないか、と思うのです。

さて、今回は新しいレシピを開発いたしましたのでご報告です。名付けて、「鰯のさんがリングイーネ」。さんがとは千葉県を代表する郷土料理、さんが焼きのことです(笑)。

材料:新鮮な鰯約200g程度、パルメジャーノ大1、オリーブオイル、味噌約20g(鰯の総量に対して10分の1)、ウスターソース少々、ニョクマム少々、シブレット(なければ浅葱大1、もしくは分葱大1、ようはねぎっぽいもの)、生姜微塵切り小1、にんにく1片、片栗粉小1、塩少々、黒こしょう少々。

作り方:まず、鰯をおろす。これが面倒な方は鰯の刺身を200g買いましょう。包丁の背で鱗を落とす。頭を落とし、肛門から裏包丁を入れ、腹部を割き、内臓を取り出す。血が残らないように水で洗う。三枚におろし、皮を剥ぎ、軽く細切れにする。そこに微塵切りのシブレット、パルメジャーノ、ウスターソース、ニョクマム、塩・こしょう、味噌、片栗粉を加え、なめろうを作る要領で包丁で叩いていく。叩いては集め、また叩き、ミンチにする。小鍋にオリーブオイルを多めに引き、鷹の爪1、潰したにんにく1片、微塵切りの生姜を入れ香りづけしたら、先の鰯を投入。火が入りきる手前でゆでたてのリングイーネに載せて、さらにオリーブオイル、パルメジャーノを全体にふりかけ、完成。絶品の鰯のさんがリングイーネパスタ、辻家で人気爆発でございます。

ボナペティ!

エッセイで紹介されたレシピは、
辻仁成 子連れロッカー「希望回復大作戦」ムスコ飯<レシピ>で公開中!

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本誌連載の料理を選りすぐったレシピ本『パリのムスコめし』発売中です!

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