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人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ…!

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日本の伝統芸能“芸者”。
海外にも有名な日本文化のひとつで、
世界遺産にもなった富士山と並べて「フジヤマ ゲイシャ」などと言われたりもするが
実態は日本人でもなかなか垣間見ることのできない限られた大人の愉しみだ。

 

芸者の世界「花柳界」――。
芸者は各「花街」に所属し活動するが、
東京には「東京六花街」と呼ばれる6つの花街がある。
新橋、赤坂、神楽坂、赤坂、向島、芳町。
場所によってそれぞれ少しずつルールや特色が異なる中で
彼女たちは自分たちの花街にプライドを持って“芸者”として生きるのである。

 

今回わたくしは新橋組合による
「演舞場発 文化を遊ぶ“なでしこの踊り・夏”」にお誘いいただき、
僭越ながら花柳界デビューさせていただきました。

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芸者遊びなんてもちろんしたこともない未知の世界だ…。
芸者とは何かすらよく知らぬ…。
こんなへっぽこうさこ如きがこんなめくるめく高嶺の花ワールドに突入していいのだろうか…?

 

不安で炸裂しそうになりながら、わたしは新橋演舞場に足を運ぶ。
入口に立つ男性に
「いらっしゃいまし、ごゆっくりお楽しみくださいまし」
と声をかけられるだけでなんかもういろいろ爆発しそうだった。

 

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地下の会場へ辿り着くと、
既に殆どの人が着席し会席弁当を食べ始めている。

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か、会席弁当…!

 

季節感に溢れた立派なお重を埋め尽くす色とりどりのお菜の数々、
後から運ばれるあたたかいごはんとお吸い物、食後のデザート。
お弁当という言葉の持つ庶民性を一気に粉砕するこれが会席弁当である。

 

わたしが緊張しすぎて何度かごはんをこぼしそうになりながら(無礼)、
「自家製鮪角煮」や「万願寺甘辛煮」、「湯引き鱧の梅肉添え」「鱸の洗い」に舌鼓を打っていると
芸者さんが出てきて日本酒の販売を行うという。
席を回りながら、注文があれば枡に日本酒を注いでくれる。

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芸者さんじきじきに枡に注いでもらう日本酒がおいしくないわけがない…!
しかしなんということだろう。
調子に乗っていたわたしは「演舞場で会席弁当を食べながら日本酒なんて乙なことしちゃうぞ!」と既に日本酒を呑んでしまっていたのである。

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普段全くお酒を呑まないのに調子に乗るから
「芸者さんに注いでもらう」というスペシャルチャンスを逃す…!
後悔に苛まれまくるわたしに優しく芸者さんたちは「お写真だけでも撮りましょうか?」と声をかけてくださり
芸者さんとのツーショットを手にした。

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…おっ…お綺麗どすな~~~!
謎の京都弁が飛び出すほど芸者さんとのツーショットは夢見心地だ…。

 

芸者さんたちによるお酒の販売が終わるとまずはお姉さん芸者さんによる「学びの時間」が始まった。
新橋花柳界が誕生した経緯や、
これから芸者衆が踊ってくれるおどりについての解説と
全く知識のない初心者も一安心の学びの時間。

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帯の結び方が男役と女役で違うなんて細かいところまで。
やはり、同じものを見るにしたって
意味が分かっているのと分かっていないのではありがたみが違う。

 

踊りは3つ。
「玉屋」は、江戸の風俗舞踊。商売人は外に出て物を売り歩くのが主流だった時代、こどもたちに絶大な人気を誇っていた「しゃぼん玉売り」と蝶々のおもちゃ「蝶々売り」の物語。蝶々がひらひら舞うのが印象的だ。

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「縁かいな」の舞台は夏の隅田川。
夕涼みに出てきた芸者が行き交う舟や打ちあがる花火を見上げる…という、艶やかな芸者の一時を切り抜いたもの。
当時こんな風に芸者さんが隅田川を歩いていたのかと思うとトキメキが止まらない。

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そして「都鳥」。隅田川で灯篭流しが行われていたころの小唄で、
波にのってゆらゆら揺れる灯篭と爽やかな川風を表現する。

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最後は揃って賑やかに踊る。

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これが…なでしこの踊り…!
司会の方が「艶やか(あでやか)で艶やか(つややか)でちょっと色気がある」(※全部同じ)と表現していたのも頷ける、
丁寧でゆったりした動きのなんて艶やかなことだろう…。
今の時代にはないこのリズム。
でも、なんともしっくり来る…!もしかしたらDNAに刻まれているのかもしれない。

 

次は「お座敷遊び」。
「奴さん」という歌を一緒に歌おうというもの。

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「サテ ハアコリャコリャ ヨイトナ」という合いの手から始まるこの歌は
“端唄”と呼ばれるもので誰もが歌いやすく作られたもの。
お手本をみせてもらって、いざ歌ってみると予定以上に唄レベルが高いということで
うたに合わせて芸者さんが踊ってくれることに…!
自分のうたで芸者さんを踊らせる…なんという稀有な経験…!
これは…試されているんだ!!
芸者さんとのぶつかり合いなんだ!!!
踊る芸者さん、三味線を弾く芸者さん、太鼓を叩く芸者さん、そして歌う我々…。

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四位一体の空間…
みんなで参加できる非常に楽しい時間でした。
お座敷遊びのたのしさに目覚める贅沢うさこ誕生の瞬間でもある。

 

プレゼント抽選のあと再び芸者さんと交流させてもらって会は閉幕。
およそ2時間…。
夢の花柳界デビュー。
知る人ぞ知る伝統芸能は、知らないのがもったいない、とっておきの時間でした。
脈々と受け継がれるからには、そこには決まって“よいもの”がある。
もはや日本において絶滅したと思っていた「大和撫子」はここにいたんだね…。
日本人であることを誇るためには、もっともっと日本のことを知らねばなるまいと思った夏のある日であった。

米原千賀子

ライター兼イラストレーター。へっぽこな見た目とは裏腹にシビれる鋭いツッコミで世の中を分析する。人呼んでうさこ。常に今日の夜ごはんのことを考えている食いしん坊健康オタクな一面も。webマガジンNeoLなどで連載中。

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