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人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ…!

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漫画っていいよね。
漫画には無限の可能性があって、すごい力を持ったひとたちもたくさん出てくる。
こどもの頃、それを見ては「いつか自分も超能力が使えるんじゃないか」「いつか自分も空が飛べるんじゃないか」と夢を見た。
でも、大人になって気付く。所詮、漫画は漫画。
人間にできることなんて限られてる。
現実を見ろ。
飛べる人なんているわけ…。

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(photo by Marco Gomes / Marco Gomes
…いた!!

これはもちろん合成ではない。
壁をのぼり、飛び越え、自由自在に駆け回る“パルクール”と呼ばれるもの。
“走る”“跳ぶ”“登る”という人間の身体技能を最大限に使うことで、世界にあるものすべてを道具もなしに遊び場に変えられる力だ。
中にはビルからビルへ飛び移ったり、マンションを高速でよじのぼったり、まるでハリウッド映画か忍者か…という非人間的なレベルまで進化を遂げた人もいる。
フランス郊外に住む貧困層の子どもたちの間で流行したのが最初だが、その魅力で今や世界中で普及。
そう、ここ日本にもパルクール集団は存在するのだ…!

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わたしは関西を拠点に活動するNaGaReというパルクール団体の教室に参加した。

大阪城に猛者たちが集う。
まずは準備運動に受け身の練習。
パルクールは失敗すれば危険が伴うスポーツなので、準備運動と受け身が何よりも大切なのだ。
そしてよじ登ったり飛び移ったり飛び越えたりという実践的な練習が始まる。

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誰一人、迷いがない。臆することなく壁や岩に挑む。
それもそのはず、その日行われたのは中級レッスン。
わたしはレベルが高い狼たちの群れに迷い込んだ子羊だったのだ。

「わたしもやってみたいな」とよぎりこっそり岩に上ってみるも、立ちすくんだのでやめた。
ただでさえ運動不足系女子のわたしが突然そんなことができるわけもなく、指をくわえて「たのしそうだな…と眺めるしかなかった。

パルクールの極意は、「ちょっとずつ慣らしていくこと」。
いきなり高いところから飛び降りたりするのはただの無謀な行為だ。危険でしかない。
少しずつ体を鍛え、恐怖に打ち勝ち、自分の能力を引き出せてはじめて“パルクール”になる。

岩はその時のわたしにとって高すぎるハードルだった。
だけどわたしだってきっと何かを乗り越えられるはずだ…!何事もやってみなくちゃ分からない。
わたしは秘密の一人パルクール特訓を開催した。

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ここからはめくるめく「うさこのどんくさパルクール劇場」をご覧ください。
まず目をつけたのはガードレール。
ここをシュっと駆け抜けたい。

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何でもないように自然にガードレールのうえを歩けたらカッコイイ。
よし。やってみよう!

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なんだこの体たらくは…!

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他にも(写真を見たらどう頑張っても転げ落ちてるようにしか見えないけど)華麗に柵を飛び越えたり、

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(駐車場の車止めという地上20センチメートルを)華麗に飛び移ったり、
しばし秘密のパルクール特訓を楽しんだ。

あまりに出来なさすぎる自分に終始笑いが止まらない。
でも、これはこれで正解な気がした。
何故なら、自由に楽しめるのがパルクールだから。

お金も道具もいらないので人を選ばず誰でも楽しめる。
いつも何気なく過ごしている場所がちょっと特別な遊び場になる。
眠っている自分の力を引き出せる。
もっと知らない自分を見ることができる。
それがパルクールだ。

ふと、幼稚園のころ高いところから飛び降りるのが好きだったことを思い出した。
あの頃は運動神経もよくて、動くのも好きだった。
でも大人になるにつれてどんどん動かなくなって、今じゃ体の10%も使ってない気がする。
元来もっともっと動けるのに、“恐れ”や“怠惰”は人を動かなくさせる。
でも本当にこれでいいのか? 宝の持ち腐れじゃないか?
動くも動かぬも自分次第なのだ。
限界を決めるのは自分で、本当はそんなものない。やろうと思えば人間だって空を飛べるし、岩だって飛び越えられる。

そんな“大人になるとついつい忘れてしまうこと”を、
ちょっとだけ思い出した。

パルクール集団NaGaRe
http://nagareparkour.jp/
関西地方で定期的に練習会やレッスンを開催。

米原千賀子

ライター兼イラストレーター。へっぽこな見た目とは裏腹にシビれる鋭いツッコミで世の中を分析する。人呼んでうさこ。常に今日の夜ごはんのことを考えている食いしん坊健康オタクな一面も。webマガジンNeoLなどで連載中。

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