これからの季節、活躍する“線香”。
懐かしいイメージとは反対に、今の時代に合わせて発展を遂げている線香を
360年線香を作り続ける梅栄堂でリサーチした。
人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ……!
日本の夏の風物詩と言えばスイカや風鈴などいろいろあるが、
わたしにとってそのひとつに“線香”がある。
それはわたしにとって、夏休みに行ったおじいちゃんおばあちゃんの家で見たイメージがあるからかもしれない。
独特のにおいや、ジリジリと燃えるあの姿は
どこか懐かしく、いろんなことを思い出させてくれる装置だ。
しかし、そんな線香がどうやら最近進化してきているらしい。
わたしは大阪の職人の町・堺で約360年に渡って線香を作り続ける『梅栄堂』さんで最新の線香事情を教わってきた。
そもそも線香とは一体何か?
身近なものだからこそ、多くの人が振り返って考えたことがないかもしれない。
始まりは仏教の「お香」。
香りは大気を清め、心を落ち着かせる力があるとして何千年も前から世界各地で重宝されてきた。
そんなお香を扱いやすくしたものが「線香」だ。
日本においてはここ堺が発祥で、最古のものが残っていると言う。
線香には「その煙を通じて仏さまとお話ができる」「仏さまにとってのお食事になる」などいろんな説があるが、
いずれにせよ亡くなった方と自分たちを繋ぐためにあることは間違いない。
わたしは線香工場へと案内してもらうことになった。
工場に入ると、ぶわっと香りが広がる。
梅栄堂の中で最もポピュラーな「好文木」は、明治時代の初めから続く看板商品。
樹(白檀や沈香)や香辛料(丁子や桂皮)など10種類の天然香料を粉末にして絶妙な割合で配合し、
椨(たぶ)という粘土の高い樹の粉と水を混ぜて捏ね、
細く切り分けたものを
乾燥させる。
まっすぐ乾かすのが至難の業で、毎日お手入れが必要だ。
物によっては手作業で。
多くの作業を機械が手伝ってくれるようになったとはいえ、
製法はほとんど360年前から変わらない。
(梅栄堂さんより・昔の製造現場)
ひとつの香料ではいい香りにならなくても、混ぜ合わせることでいい香りにするのが線香。
「料理と同じなんです。醤油だけじゃおいしくなくても、みりんとかおさけと混ぜて煮物にしたらおいしくなる」と社員さんは語る。
ショールームにお邪魔すると、そこにはわたしの知っている「線香」に留まらない商品が並んでいた。
桐箱に入った「伽羅古香」は、1束60,000円(税抜)。
もともと天然香料は高価な取引をされるもので、優れたものになると金の値段を超える代物もあるらしい。
中でも良いとされる伽羅の樹をふんだんに使ったこのお線香は、とっておきのお値段だ。
他には、ラベンダーやミントといったフローラルな香り。
コーヒーやイチゴのたべものの香りや、「風水香」なんて幸運を呼びそうなものまである。
こんなに香りが楽しめるとは……!
中にはいい香りをお部屋で焚いて楽しむ人もいるようだ。飲食店の香り消しに使われることも。
しかしそればかりでもなく、
「亡くなった旦那がコーヒーを好きだったので……」
「イチゴの香りだと、子どもが喜んでおじいちゃんに線香をあげてくれるので」
という線香ならではの事情もあった。
どうせなら、好きなものや香りを故人に届けたい。
単に楽しみたいだけではなく、そんな想いが込められているのだ。
これまで儀式として淡々と焚くだけだった“線香”だが、
本来楽しむべき“香り”であり、届けたい“想い”であることを知った。
次に線香を選ぶ時には、わたしも誰かのためを思いたい。
創業1657年『梅栄堂』
http://www.baieido.co.jp/
住所:大阪府堺市堺区車之町東1-1-4
TEL:072-229-4545