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11月某日 ハワイ

ハワイに来ています。今回もハワイの大学にいる息子と、こちらに暮らしている病気の幼馴染みのお見舞いをしたいという82歳の母を連れてくるのが一番の目的だったので、リゾートらしいことは何一つしておりません。ワイキキのど真ん中にある、窓を開ければ美しい海が望める部屋に滞在しながらも、海水に浸ることすら叶っていませんが、まあ最初からそれができると思って来ているわけでもないので、飄々と、余計なことを考えずに日々過ごしております。

ただし今回は日本から友人2人も同行しているので、周辺を彼らと一緒にうろうろする程度はしておりますが、それにしても今回はワイキキの中でも最もワイキキらしいホテルに泊まることにしたからなのか、やたらと日本人の新郎新婦を見かけます。

今のところ2日間の滞在で10組くらいのカップルに遭遇しましたが、ハワイ挙式の人気っぷりを実際を目の当たりにして思い知りました。だって本当に、少なくとも見かけるのは日本人のカップル“だけ”なのです。他の国の人でもハワイ挙式している人がいるのかもしれませんが、全く見かけません。

飛行機の中にウェディングドレスを持ち込んでいる女性もいましたが、わざわざ自分たちの国を離れ、アウェイな場所で結婚式をするというのはなかなか大変そうに見えます。

洗い晒したTシャツに短パン姿のおっさん、アッパッパー姿のオバさん、ペタペタとビーサンを鳴らしながら濡れた水着にサーフボードを抱えて闊歩する若者などが往来するホテルの手前で、ふわふわ純白の衣装に身を包んだ真っ白な肌のファンシーな新婦が、光沢のある不思議なデザインの煌びやかなスーツに身を包んだ新婦と、手を取り合って見つめ合う姿をカメラマンが撮影しているその光景のシュールさといったらありません。

挙式を上げるカップルの数があまりに多過ぎるためなのか、多くの観光客にとってそんな日本の新郎新婦の姿はもう既に珍しいものでも何でもなく、その特別なふたりの佇まいにわざわざ足を止めて見入る人はあまりいません。というか、眼中にすら入っていないような、その被写体に対してあまりにも無関心なリラックスっぷりが徹底的過ぎて、逆にそんな彼らの姿がどこかに映り込んだウェディング写真を見てみたいくらいです。それほど、その光景はシュールに感じられます。

外国人であれば全く気にならないような、抱き合ったり、目を見つめ合ったり、新郎が新婦の前でひざまずいたり、というドラマティックで勇気のいるポーズを次から次へと、沢山の観光客の前で取らされる新郎新婦の心境はいったいどんなものなのでしょう。撮影とはいえ、大事な人生の儀式の一場面なのですから、もっと周りからも祝福の眼差しが注がれてもいいはずなのですが、周囲のあの「また新婚カップルかよ」的な雰囲気はなかなかシビアです。

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ハワイには、パリのテロ被害の悲壮な世の中の現実感はほとんど届いていません。

そういえば昔、フィレンツェの由緒ある教会で俳優の石田純一さんが挙式しているのを見かけたことがありましたが、そのときはイタリアで結婚式をする日本人なんて滅多にいませんから、沢山のイタリア人たちが立ち止まってその様子をじっと見つめていました。そして同族である私に「あの人たちはカトリックなの? なぜ親族も呼べないような彼らの土地でもない遠いこの場所に来て、結婚式をしているの?」と聞かれて答えに詰まったことがありました。

日本人がいつからアウェイ結婚式をするようになったのか、その詳細は調べたことがないのでわかりませんが、日本には沢山の結婚式目的に作られた「偽キリスト教会」があることから憶測するに、日本人にとっての挙式の概念はオーソドックな理念や宗教観に縛られないという意味で、どんな国の人たちよりもオープンな考え方が許されているものなのかもしれません。

結婚式というショーは妄想と非現実的なシチュエーションで思う存分楽しむもの、という捉え方が海外での挙式にも繋がっているような気がしております。だから、ハワイという徹底的な観光地での挙式もおおいに〝アリ〟なのでしょう。

ちなみに私も夫もアウェイであるカイロで結婚式をしましたが、それは当時カイロに留学していた夫の立場上、他に選択肢が他になかったからであり、式に参加したのは夫の両親のみ。挙式はイタリア領事館でサインをするだけで終わりましたが、先日その領事館もイスラム過激派によって爆破され、すっかり崩れ落ちてしまいました。

パリではテロによる大惨事が発生して大騒ぎになっていますが、ハワイにはその悲壮な世の中の現実感はほとんど届いていません。窓を開けるとそこには珊瑚礁の海辺ではしゃぐ人々の姿があり、蘭のレイを首からぶら下げた観光客が緊張感のない足取りで彷徨い歩き、ロビーへ向かえばふわふわの花嫁と新婦がカメラマンの前でロマンティックなポーズを取っています。目も背けたくなる辛辣な世の中の事象に脅かされているような人はひとりも目に入りません。

そう考えると、妄想と非現実的要素が盛り込まれた、この桃源郷的島・ハワイは結婚式にはぴったりな場所とも言えるでしょう。どうかここで結ばれた2人が現実世界に戻ってからも、末永く幸せに過ごし続けられます様に……。

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