1月某日 東京
先週は日本全国が大寒波に見舞われ、九州や四国でも積雪したり、新潟では大雪で電車が15時間も立ち往生。東京もお天気は良いのに骨身に沁みる寒い日が続きました。こんなときこそ、その存在の有り難みをしみじみ痛感するのが、温泉です。
毎年寒い時期になるとお風呂や温泉の特集を組む雑誌やメディアが多くなり、風呂漫画を描いた経験上それらの媒体から「ヤマザキさんのおすすめ温泉はどこですか?」「入浴のこだわりは!?」と言った質問を受けることがあります。20年程前に温泉リポーターとして北海道と東北の温泉を巡っていた経験のある私ですが、だからといって日本中の温泉を知り尽くしているわけではありません。それぞれの地域の温泉の様々な特徴についてはオーソリティの方たちがいますので、温泉選びにはそういう専門家の情報を参考にするのがいち一番と言えます。
とはいいつつも、私も日本に滞在している間は時間さえあれば、時にはたった1泊2日でも九州や東北など遠方の温泉へ行くこともありますし、東京でレンタカーを借りて、長野や群馬あたりの温泉に出向くこともあります。仕事で地方へ行く時はなるべくその近隣の温泉地に宿泊するようにもしているおかげで、結構いろんな温泉を知っている、という自負がないわけではありません。
先述のインタビューなどでよく質問されるのは、私が温泉を選ぶ時に一番こだわるのは何か、ということですが、勿論リラックスが目的である以上旅館の質や温泉地の雰囲気などはとても大事です。ですが、最近はやはり温泉地の泉質や、その宿のお湯が掛け流しであるかどうか、ということを優先的に調べるようになりました。
日本列島いたる場所で涌出している温泉ではありますが、自分に合う温泉の質というのは確かにあって、例えば私が大好きな青森の酸ヶ湯温泉はその名前からも判る通り強い酸性のお湯です。ここのお湯は入った直後から身体中がちりちりして、ああ肌の下で老廃物や毒素が分解されているかも!! という気分にさせてくれます。強い硫黄泉や炭酸水素泉も気に入っていますが、私は家でも熱めのお湯に短時間ざぱっと入るのが習慣になっているので、温泉も熱いお湯が涌出していて成分の強いものを嗜好する傾向があるようです。
そんなわけで、私は普段家にいるときも毎度お風呂を沸かせば、必ず入浴剤を入れるわけですが、この入浴剤というのが本当に奥が深い。種類も沢山ありますがその効能も様々で、どんなニーズにも応えてくれるのが、さすが温泉と風呂文化の浸透した日本の入浴剤です。温泉の詳しさよりも、今の私はどちらかといえば入浴剤知識の方が豊富かもしれません。それくらい、とにかく沢山の種類のものを試していますし、家には常に何種類もの入浴剤が常備されております。
日本各地の温泉地をイメージしたもの、本物の温泉の湯の花、檜やヒバなどの樹木系、炭酸系のタブレット、薬湯系、アロマ重視のバスソルト。最近は微炭酸が発生する粉状の入浴剤が気に入っていて、全種類を疲労具合や気分によって使い分けています。プレーンなお湯と比べると入浴剤を入れたお湯には確実に保温効果がありますが、炭酸系の入浴剤はなんとなくその効果が長く持続してくれるように思えるので、寒い日の朝風呂なんかにはピッタリです。就寝直前だと身体が火照り過ぎて寝付きが悪くなる可能性がありますから、この種の保温効果持続系入浴剤のお風呂に入った場合は、入浴後しばらく身体を冷ましてから就寝するのがベストかもしれません。
ヒマラヤ岩塩は入浴剤としても効果的
ちなみにイタリア滞在中に日本から持って行った入浴剤を切らした場合は、クナイプというドイツ発祥の植物系バスソルトを調達しますが、これは扱っている店が殆どないので入手にはなかなか苦労をします。日本のようにバスタブで寛ぎ、家族が交替で入浴するという習慣のない欧米では、こうした入浴剤の需要はありません。それでもドイツなど冬にはとても寒くなる北ヨーロッパでは、このクナイプのような植物の特性を活かしたバスソルトの利用者は多いようです。
このクナイプすら手に入らない時はどうするかというと、仕方がないので、近くの薬局で売っている米やトウモロコシのでんぷん粉入浴剤を使います。イタリアではこのでんぷん粉入浴は昔からあるらしいのですが、でんぷんには肌を保湿する効果があると言われていて、私的にはこころなしか保温効果もあるように思えます。
それでもどうも物足りない時に調達するのは岩塩です。食用に売られている岩塩をお風呂に入れるのです。最近ではヒマラヤの岩塩も簡単に入手できるようになりました。このヒマラヤの岩塩というのは、入浴剤としても発汗性を促したりデトックス作用など画期的な効果を発揮するだけでなく、食用としても消化機能を改善したり血圧のバランスを整えるとされているので、健康維持にも重宝します。
そしてこのヒマラヤ岩塩で、私が何よりも気に入っているのがにおいです。2億5千万年前の地殻変動によって作られたとされるこの岩塩ですが、具体的には日本の温泉地でもきっとみなさんが経験したことのある、あの硫黄のにおいそのものなのです。私はお風呂に入らない時でもこの岩塩の袋を開けてそのにおいを嗅ぎ、故郷日本の温泉地を思い浮かべて癒されることもあります。イタリアの家族には「臭い!!」と大不評ではありますが、構いません。アロマとしてはどんなものより、この硫黄臭が絶対に効果的なのです。
寒い時期はこれからもまだ続きそうですが、どうぞ皆さん恵まれた日本の多種多様な入浴剤で、冷えた身体を存分に癒してみて下さい。そして寒くなくても、疲れたりちょっとむしゃくしゃすることがあった時も、お風呂に入浴剤を入れるだけで気持ちは仏様のように寛大になることでしょう。
温泉大国だからこそ、ここまで進化した日本の入浴剤ですが、これからもどんなものが開発されるのか楽しみでなりません。