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タケノコがにょきにょき顔を出す山道を行く

長崎では江戸時代に「七高山巡り」というならわしがあった。正月の2日から15日までの間に市街を囲む7つの山(金毘羅山、七面山、烽火山、秋葉山、豊前坊、彦山、愛宕山)をわらじ履きで、1日かけて巡拝。それぞれの山にある神社やお堂で1年間の無病息災を祈願するというもの。せっかく長崎を訪れたのだから、その古き伝統に触れてみたい。ということで、7つの山の最高峰である烽火山を訪れた。

 

烽火山の登山口はいくつかあるが、今回は市電に乗って鳴滝の七面山コースに向かう。新中川町の電停で下り、シーボルト記念館の隣にあるシーボルト邸跡(鳴滝塾)に立ち寄る。江戸時代、オランダ商館医として迎えられ、日本に西洋医学、博物学を伝授するとともに日本の調査研究を行い、その成果をヨーロッパに伝えたシーボルト。その胸像に挨拶し、先を急ぐ。

細い車道を登り詰めていくと、「霊場七面山」の山門が。このあたりは春の花々が咲き誇っている。青紫のスミレ、山吹、しだれ桜。せせらぎ沿いのもみじの新緑が鮮やかだ。ここから道は苔むした石段になる。「長坂 百八段」と書かれた木碑が目に付く。「上段 百八の煩悩が一段登るごとに消滅する」と書かれている。ありがたい。神妙な気持ちでゆっくりと登る。

 

七面山妙光寺の本堂で無事登山の祈願をし、裏手にある登山口に取り付く。竹がうっそうと茂った竹林の中の登りが続く。木洩れ日の中をのんびりと歩く。風に竹の葉がそよぐ。途中からタケノコがにょきにょきと顔を出し始めた。しばらく行くと、藪の中でガサガサッと音がした。音のした付近を見ると、なんと猿! 住宅街からほど近い里山で猿に出くわすなんて。

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烽火台跡のある山頂から港町の景色を心ゆくまで楽しむ

竹林が終わると広葉樹林になり、ぬかるんだ急登となる。滑りやすいので一歩一歩慎重に進む。やがて尾根道となりなだらかな散策コースに変わる。落ち葉が積もった快適な道を進む。木の幹にサルノコシカケの仲間とおぼしきキノコが出っ張っている。触ってみると硬い。幅は15㌢ほどか。もう少し大きくなれば猿が腰掛けられそうだ。広葉樹の間から明るい空がのぞき、ウグイスやシジュウカラの鳴き声が響き渡る。いい道だ。

 

妙光寺裏から30分ほど登ったろうか、烽火山の山頂に到達した。ここには江戸時代に築かれた烽火台の跡が残っている。烽火台は寛永15年(1638)島原の乱平定後に、長崎を巡視した松平信綱の命によって築かれた警報機関。1647年にマカオ使節、1808年にイギリス軍艦が入港した際に使用されたそうだ。

烽火台が築かれただけあり、見晴らしは抜群。長崎の港、市街が一望できる。風はあるが、麗らかな日差しが心地いい。ゆっくりと昼寝でもしたいスポットだ。熱いコーヒーを入れて一服。ヤマザクラだろうか。風で葉が舞い散る。山上の花吹雪である。春の名残を惜しむかのような光景だ。市電に乗って山歩きをスタートし、1時間ちょっとでこんな眺望スポットにたどり着けるなんて、長崎の人たちがうらやましくなった。

 

帰りは武功山から蛍茶屋公園に下りる道を選択。樹林の中の急坂を下った後は、登り返しが待っていた。薄暗い林の中にケルンがある。記念に小さな石をそっと載せてみる。ここが武功山の山頂だった。鳥の鳴き声に見守られながら山道を下っていく。すると脇にタケノコが散乱している。皮をめくられ、かじったような跡がある。猿の仕業なのか。日が落ち始めてきたころ、蛍茶屋公園に降り立った。雨上がりの午後のひととき。誰にも会わない静かな山歩きだった。

 

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【長崎さるく】

長崎市内は見所、観光スポットがいっぱい。1日や2日ではとても回りきれないほど。そこでお薦めなのが「長崎さるく」。『さるく』とは長崎弁で、街をぶらぶら歩くという意味。「長崎さるく」は2006年に始まった街歩きガイドで、空港などにガイド冊子やマップが用意されている。「遊・通・学・食」4つのスタイルがある。「通さるく」は、街を知りつくしたガイドが観光や歴史のコースを案内してくれる(要予約、参加料500円~)。坂本龍馬の足跡をたどる「龍馬が見上げた長崎の空」は、所要2時間半で中学生以上700円。

シーボルトの私塾「鳴滝塾跡」を訪ねる「シーボルトの寄り道」(同2時間 500円)はアジサイのシーズンに。このほか長崎の教会群とキリスト教関連遺産を巡るコースなど「通さるく」だけで29コースが設定されている。

問い合わせ 長崎国際観光コンベンション協会 長崎さるく受付
電話 095-811-0369 http://www.saruku.info/

 

【パワースポット】

諏訪神社は地元では「お諏訪さん」と親しまれ、厄除け、縁結び、海上守護の神社として崇敬されている。10月の例大祭は日本三大祭のひとつ「長崎くんち」として有名。この神社には2つの縁結びスポットがある。

*縁結びの陰陽石>参道の敷石に男石(一の鳥居近く)、女石(四の鳥居近く)が埋め込まれている。男性は女石を、女性は男石を踏んだ後、拝殿前の両性が合体した石を踏んで参拝すると願い事が叶うという。

*恵比須、大黒 縁結び「恋占い」
拝殿右横に恵比須様と大黒様の像がある。男性は大黒様に、女性は恵比須様にお賽銭を入れ、恋する人のことを念じて、男性は大黒様から恵比須様へ、女性は恵比須様から大黒様へ目を閉じて歩く。無事にたどり着けたら祈願が成就するそうだ。筆者も試してみたが、恵比須様の30センチ手前で思わず目を開けてしまった。そういえば、念じる相手がいなかったなあ。

ANA 山ガールの長崎自慢

坂の多い長崎の街を毎日歩くことが、女性のスタイルを良くする秘訣でしょうか
長崎空港ビルディング株式会社
航空部旅客課 ステーションコントロール担当
篠田 千栄さん

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長崎女性と坂と砂糖

長崎の街は本当に坂が多い。山の中腹まで細い道、階段が延び、住宅が立ち並んでいる。市内にはオランダ坂、ヘイフリ坂、ピントコ坂、ドンドン坂など、異国情緒たっぷりの名前から珍名まで。とにかく坂だらけである。毎日、この坂を上り下りするのだから大変だ。

この坂が“長崎美人”を生み出した?

「長崎市は7割が坂と言われているほどです。その坂道をよく歩くことが、女性にとってはスタイルを良くする秘訣になっているかもしれません」

長崎といえば砂糖を使ったスイーツが多いことでも有名。

「長崎の女性はやはりスイーツ好きの方が多いですね。南蛮から出島に入った砂糖は、長崎から佐賀、小倉へ続く長崎街道を経て京や江戸にまで運ばれたそうです。この道はシュガーロードと呼ばれています。そんな歴史があることから、長崎には金平糖、カステラ、シースケーキ、ミルクセーキ、100円のちりんちりんアイスなど甘いスイーツが多く、いずれも女性の大好物です」

篠田さんのお薦めスイーツは、求肥と昆布を材料とした和菓子「もしほ草」(岩永梅寿軒)。砂糖を贅沢に使った和菓子で、もちもちとした食感と噛むほどに広がる磯の香りが特徴だ。

長崎のグルメの代名詞といえば「ちゃんぽん」。グラバー園近くのちゃんぽん発祥の店「四海樓」、新地中華街の「江山楼」、思案橋横丁の「康楽」など名店が多い。そうした中、篠田さんに女性向けのグルメスポットを紹介していただいた。

「長崎には、中国料理と西欧料理を日本化させた卓袱料理という大皿に盛られたコース料理があります。お薦めはランチのミニ卓袱ですね。3000円程度のお手頃料金で老舗料亭の味を楽しめます。庶民的な味でいえば、眼鏡橋近くの『一二三亭』のおじや。旨みが効いた出汁とクリーミーな食感がたまりません。ヘルシーなので女性にはピッタリです。あと、長崎では飲んだ後、おにぎりとみそ汁で締めるのがツウ。『かにや』(銅座町)の塩さばおにぎりと赤だしで決めたいところです。あと忘れてならないのは『桃太呂』(思案橋)のぶたまん、『雲龍亭』(思案橋)の一口餃子といったところでしょうか」

山歩きの後に、すばらしいグルメワールドが待っている。

長崎編、次回は九州百名山のひとつ「志々伎山」を歩きます!

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