第3弾は「シャーロット」と「日本一のおんせん県」の大分
薫風がさわやかな5月下旬、ANA791便で大分に向かった。羽田を飛び立って1時間ほどすると、窓の下に瀬戸内海があらわれる。本州と四国を結ぶ橋、大小の島々……。大空からの光景を俯瞰できるヒコーキの旅の醍醐味を楽しむ。
GWの終盤、大分市にある高崎山自然動物園で生まれたサルの赤ちゃんの名前をめぐる大騒動が勃発。すったもんだの末、当初の公募名「シャーロット」で落ち着いたが、この赤ちゃんザルは元気だろうか。大分といえば温泉。「日本一のおんせん県おおいた」を自称し、ユニークなCMも話題になった。ということで、第3弾は「大分の山と温泉三昧&シャーロットとご対面」の空飛ぶ山歩きとなりました♪。
万葉集にも詠まれた「由布岳」(豊後富士)の端正な姿
最初にご紹介するのは、女性に大人気の温泉リゾート地・湯布院のシンボル「由布岳」(1583m)。湯布院の北に位置する双耳峰のトロイデ型火山で、どこから見ても絵になる山である。万葉集にも4首が詠まれている。有名なのは次の歌。
「娘子(をとめ)らが 放り(はなり)の髪を
由(ゆ)布(ふ)の山 雲なたなびき 家のあたり見む」 作者不詳
(乙女の髪型のような由布の山が見える。雲よ、家のあたりを見たいから雲をたなびかないでくれ)
解釈はいろいろあるようだ。「妻のいる家のあたりを見たいから、由布の山の雲よ、たなびかないでくれ」といった解説もある。放りの髪とは頭髪に二つのこぶをつくり、そこから垂らした少女の髪型のこと。由布の山(由布岳)の双耳峰をこの髪型に見立てたのだろう。由布の山は「木綿(ゆふ)の山」の表記も。山を見て妻を想う。見習わなくては。
早朝の湯布院を散策。地下水がこんこんと湧き出る金鱗湖を一周し、流れ出た大分川の透き通った水の中に小魚が群れで戯れている。川沿いに歩くと田園地帯に。田植えを終えたばかりの水面に朝の由布岳が映り込んでいる。のどかな田園光景を満喫し、宿で朝食を済ませた後、由布岳に向かう。午前10時、標高776mの正面登り口を出発。一面の緑に覆われた草原の中に浮かぶ由布岳は、湯布院からの眺めとは違う端正な姿。いいなあ。草原の道を15分ほどで樹林帯に入る。緩やかな歩きやすい道が続く。「頭上注意!」の表示がある。ヒノキが枯れているようだ。ミズナラの新緑がさわやか。快適な40分ほどで小さなケルンが見えてきた。西登山口からのルートが合流する中腹の合野越だ。ここで一息入れる。朝立ち寄った大杵社で汲んできた水がうまい。
再び樹林帯に入る。石や小さな岩が増え、歩きにくくなってくる。ジグザグに切られた道を進むとやがて灌木帯に入る。眼下に湯布院の田園地帯が一望できる。だんだん傾斜がきつくなってきた。鮮やかなピンクのミヤマキリシマを眺めて小休止。岩場を乗り越えていく若者たちの姿を撮影。やがて「山頂まで400m」の標識。もうひと踏ん張りだ。ひと登りでマタエに到着。東峰と西峰の分岐点である。初心者は急坂を登るだけの東峰へのルートが無難だ。
やせた岩尾根を乗り越えるスリリングなお鉢巡り
せっかく九州の美峰に登ったのだから、東西両峰の頂に立とうと、西峰ルートからお鉢巡りをすることにした。最初の難関は障子戸という岩場の絶壁。先行する若者が手こずっている。鎖に両手でしがみついてしまい、ニッチもサッチもいかない様子。「片手を岩のくぼみにかけて体重を少しずつ移動して」と声を掛ける。蟹の横歩きみたいにして乗り越えなければならないポイントだ。スムーズにいけば10秒もあれば越えられるのだが、下を見たら恐怖感が出てくるから進めなくなる。なんとか若者が乗り切った。
続いて15mほどの岩場があらわれる。ここも3点確保で乗り越える。ほどなく斜度が緩み、西峰の山頂に到達。登山口から2時間20分経っていた。ザックをおろして休憩タイム。グループがいたのであいさつ。福岡からきた山歩き仲間だという。彼らの登頂写真を撮らせてもらい、山話に興じる。八ヶ岳の話をしていたところ、リーダー格の男性と話が合う。聞けば松本出身だという。筆者と同じ信州人だ。
「47も都道府県があるのに、大分の山で長野県人が出会うなんておもしろい!」
グループの女性が驚いている。山ではいろんなことが起きるものだ。おや、ポツ、ポツと小雨が落ちてきた。先を急ごう。ランチタイムのグループに別れを告げ、お鉢巡りに。
北に進んだのち右に折れ、火口壁を下りていく。降り切ったところから西峰の頂を仰ぎ見る。ずいぶんと下りたなあ。火口壁はすり鉢状で緑に覆われている。目の前には巨岩が迫る。これを乗り越えていくのだ。幸い、雨はやみ気味。気合を入れて取りかかる。よじ登るぶんには平気である。問題は降りるとき。鎖もロープもないから、慎重に手足の置き場を見極める。岩の取掛かりをしっかりとホールドし、次の足の置き場を想定しながら足を移動する。切り立った岩だから、滑落すれば火口に一直線だ。気を使う。スリリングだが、無事に降り立った瞬間の気分は爽快だ。
数カ所の難所をクリアし剣の峰にたどり着く。ここからは南方向に進む。やがて東登山口からの道と合流し、しばらくして東峰のピークに到達。西峰山頂から1時間20分ほど要した。14時近い。山頂にはほかには一組しかいない。黒糖を舐め、糖分を補給。雨は上がり、彼方にくじゅう連山が浮かぶ。その先には阿蘇の山並みが。西には別府湾。いい眺めだ。
満足、満足。風が強くなってきた。風速10mぐらいはありそうだ。さあ降りよう。
所要時間 5時間40分(休憩含む)
標高差 約800m
【パワースポット】大杵社(おおごしゃ)
湯布院の人気パワースポットで訪れる人が多い。お目当ては巨大な杉。説明文によると、根元周囲13.3m、胸高周囲10.9m、樹高38mもある。幹の裏側には大きな空洞があり、中は畳が三枚も敷けるほどの広さがある。この巨大杉は、大分県で最も大きな杉で樹齢は千年以上と言われている。境内を掃除していた男性が「数年前の大型台風で近くの神社の木々は軒並み倒されてしまったけど、ここ(大杵社)の杉は、ビクともしなかったよ」と教えてくれた。
一帯に荘厳な雰囲気が漂う。巨大杉に手を触れ、パワーをもらう。万葉集の歌が掘られた石碑があった。
「よしえやし 恋ひじとすれど
木綿間山(ゆふまやま) 越えにし君が 思ほゆらくに」 読人不祥
(もう恋しがるまいと思うが 木綿間山(由布岳)を越えて行った君が思われることだ)
いつの時代も、人の心情は変わらないんだなあ。
【宿】林に囲まれた静かなペンション 露天風呂は無料で貸し切り
今回泊まったのは「ペンション木綿(ゆふ)恋記(ごいき)」。オープンして38年という歴史あるペンションだ。瀟洒な建物の周囲は林に囲まれ、広い庭に樹木が茂る。温泉は自然湧出湯100%のかけ流し。内湯のほかに露天風呂があり、無料で貸し切りに出来るサービスがうれしい。朝食は手作りパンに卵料理やサラダ、ヨーグルトなどヘルシー。ペンションの名前は、水上勉の作品「木綿恋い記」より。
「水上先生が湯布院に何回も取材にいらした際、主人の父(かつての由布町長)がご案内した経緯があり、オープンするときに先生に手紙を差し上げ、許可をいただいたものです」(オーナー夫人の岩男さつみさん)
夜になると近くの田んぼでカエルの合唱が始まる。湯の坪川の岸辺を散策したら蛍が舞っていた。心休まる宿である。
問い合わせ ペンション木綿(ゆふ)恋記(ごいき) 由布市湯布院町川上2760-1
TEL:0977-84-3766
ANA 山ガールの大分自慢
「歴史ロマンと自然、温泉の魅力を味わってください」
大分航空ターミナル株式会社 航空部旅客課
城戸 恵子さん(左)
野田 由香理さん(中)
阿部 弥生さん(右)
国東(くにさき)半島 峯道トレッキング
旅客カウンターでチェックイン業務など搭乗客のサービスを担当する3人のグランドスタッフの女性陣に、大分のオススメ山歩きについてうかがった。
「大分空港のある国東半島は、神と仏が共存する神仏習合文化の発祥の地として知られ、特異な文化や奇祭が受け継がれています。その国東半島の歴史ロマンと自然に触れながら、自然歩道をゆっくりと巡るトレッキングをお薦めしたいですね」
用意していただいたパンフレットは「仏の里 くにさき 峯道トレッキングマップ」。国東半島の峯々で10年に一度行われる「六郷満山峯入り行」。150キロあまりの道のりを4日間かけて踏破する行で、その時歩く道を峯道という。「両子寺~京乱の里~文殊仙寺」など6つのトレッキングコースが紹介されている。
問合せ先 豊後高田市観光協会
TEL:0978-22-3100
鶴見岳
毎年、職場の仲間たちと登る山は、別府市郊外の鶴見岳(1374m)。
「4月に『べっぷ鶴見岳一気登山』というイベントがあり、10人ぐらいで参加します。海抜0mのSPAビーチから山頂まで自動車道を一切通らないコースで、私たちが参加したのは全長8kmのハーフコース。3時間ぐらいかけてビーチから麓までのんびりと歩き、ゴールした後は、みんなでわいわいとお弁当タイム。その後はもちろん温泉です!」
大分の山歩きは、もれなく温泉付き。これがサイコー♪ 次回は、日本百名山にも選ばれている「久住山(くじゅうさん)」と麓の温泉を紹介します。