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マングローブの生い茂る川を独占、幻の花を愛でながらのんびりカヌー

沖縄離島編3回目は、沖縄で2番目の広さを誇る西表島に上陸。落差55m、沖縄最大のピナイサーラの滝を目指すジャングルツアーに挑む。カヌーとトレッキングの組み合わせになるので、西表島の民宿「モンスーン」のツアーに参加した。

朝7時。広大な海に朝日が上がる。朝霧がかかっているのでボヤっとした光景だ。宿のハンモックに寝そべり、熱いモーニングコーヒーをすすりながら大自然のショータイムを楽しむ。ベンチには猫が穏やかな顔でまどろんでいる。やがて霧が晴れ、オレンジの太陽が海面に影を落とす。まるで夕陽のような眺めである。そのうち「ご飯でーす」という宿のスタッフの声が聞こえてきた。さあ、一日のスタートだ。

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ツアー出発は9時。西表島生活5年の女性ガイドAyaさんと軽トラでカヌー乗り場に向かう。途中、ビニールハウスの前に停車した。Ayaさんが右手を指差し、「いま、マンゴーの花が咲いているんですよ。ご覧になってください」と言う。マンゴーの花、見たことがない。車を降りてハウスに近づく。緑の葉の上にオレンジの小さな花が密集して咲いている。果実の色のようだ。珍しい花を観賞でき、幸先のいいスタートだ。

カヌー置き場のあるマーレー川に到着。日焼け止めのスプレーを腕や首にかけ、一人用のカヌー(正式にはカヤック)に乗り込む。この日は春休みが終わり、GWまでの束の間の閑散期とあり、川には誰もいない。二艘のカヌーが静かに川面を滑り出す。青空の下、風もなく穏やかな陽気だ。両岸にマングローブが生い茂る。

「このマングローブの中に入ってみましょうか。午後になると干潮で水がなくなりますから」

Ayaさんの後についてマングローブ林の中に突入する。川の中からマングローブが生え、その合間をゆっくりと進む。木には泥色のカニがへばりついている。しばし、オールを漕ぐ手を止め、カヌーの上で小鳥のさえずりを楽しむ。

再び水路に出る。川は蛇行を繰り返し、川幅を広げていく。やがてヒナイ川との合流点にさしかかり、今度はヒナイ川を遡っていく。岸にピンクの花が咲いている。なんだろう。

「“幻の花”が咲いていますよ。聖なる紫の花と書いて“聖紫花(せいしか)”と読みます。ツツジ科で山奥の急な斜面や渓流沿いに自生する花で、絶滅危惧種に指定されている貴重な存在です」

カヌーを止め、幻の花をじっくりと観察。白い花弁の中央部から薄紅色が広がる。そのグラデーションが美しい。

漕ぎ始めて30~40分、前方に大きな岩肌が見えてきた。その真ん中に一筋の水の流れ。ピナイサーラの滝だ。流れのない川面に滝が映り込む。素晴らしい光景だ。左岸にカヌーを止めて岸に上がる。ここからは、いよいよジャングルトレッキングの世界だ。

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広大なジャングルと青い海を眺望する滝上の絶景ポイント

上陸早々、見たこともない樹木と遭遇した。板が波打っているような形状の「板根」をもつサキシマスオウノキ(先島蘇芳木)だ。高さ20m近く、幹回りは2mはあろうかという大木だ。泥状の地中だけでは木を支えきれないため根を地上に出すようになったといわれている。いきなり驚きの世界である。

水分を補給して、出発。樹木が茂る細い道をゆっくりと歩いていく。ところどころでこの一帯の樹木、花、生物に関するAyaさんの詳しいガイドが入る。真っ赤な血のような樹液を出すアカギ、アカギの大木に絡みつき、やがて絞め殺してしまうガジュマル、夜中から早朝にかけて咲くサガリバナ…。ジャングルの中で植物たちは生き延び、子孫を残していくために、人智を超える手法を駆使しているのだ。奥の深い世界である。

楽しい会話をしながら40分ほどのトレッキングで、いよいよ滝上に到着だ。岩の間を流れる渓流の音が一帯を支配する。亜熱帯植物がなければ、本州の山奥の渓流かと思うような光景だ。流れの上に薄いピンクの幻の花・セイシカ、隣には白と黄色のクチナシが彩りを添えている。近づくとクチナシが甘い香りを放っている。そのクチナシの葉に鮮やかなブルーの蛾がとまった。“生物博士”のAyaさんですら初めて見たという。隣にいた別の男性ガイドが「オキナワルリチラシじゃないかなあ」とつぶやく。帰ってから調べてみよう(どうもサツマニシキという蛾のようだ)。

ザックを置き、滝上からの絶景を楽しむ。広大な亜熱帯ジャングルの中に一筋の水路、ヒナイ川が延びる。その先にはきれいな珊瑚礁の海が広がり、バラス島や鳩間島が浮かぶ。空には青空と白い雲。渓流の音をバックに、西表島いちばんの絶景ショーを堪能する。

すべてが天然の産物である。貴重な大自然が残るこの環境をいつまでも残していってほしい。

滝が落ちる先端部近くに、先にやって来ていたトレッカーが寝そべって、滝の直下を眺めている。真似してみたが、これは怖い!滝壺に吸い寄せられそうだ。景観保持のため柵などの人工物は一切ないので、先端部には近づきすぎないようにしたい。

絶景を楽しんだ後はランチタイム。手作りのおにぎりと鶏のから揚げ、ゆで卵のお弁当。Ayaさんがガスバーナーで湯を沸かし、温かい味噌汁を用意してくれる。滝の上で雄大な景色を眺めながらパクつくおにぎりがうまい。大きなサイズ2個をあっという間にたいらげてしまった。ランチタイムの途中、上空に2羽の鳥が近づいてきて旋回を始めた。

「カンムリワシですよ」

特別天然記念物に指定されている希少なワシ。運がよければ木のてっぺんや電柱に止まっている姿を見かけるというが、今回の旅で初めてお目にかかった。ツイてるぞ!

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滝壺めがけてジャンプ! 童心に帰って水遊び

次は滝壺を目指す。登ってきた道をカヌー係留地点まで戻り、別の道を行く。15分ほどで滝があらわれた。落差55m、沖縄最大級の滝はさすがに迫力がある。前夜、すごいスコールだったから水量が多いようだ。滝壺は結構大きい。ライフジャケットを身に着け、泳いで岩場に向かう。岩の上から勢いをつけてジャンプ!足から飛び込む。子供に返ったような気分だ。トレッキングで汗をかいた身に、ひんやりとした沢の水が気持ちいい。

「こちらに来てください」

Ayaさんの指示にしたがい移動すると、そこは岩の間から小さな流れが勢いよく落ちている。ここに寝そべってみろという。仰向けに寝そべる、頭上から急流が体を突き抜けていく。天然ジャグジーである。青い空を眺め、滝ジャグジーに浸る極上タイム。

滝壺から上がり、いつのまにか淹れてくれた熱いコーヒーで体を温める。大きなシダや濃い緑の樹木越しに眺める滝の姿がワイルドでいい。南国にいることを実感するひとときだ。マイナスイオンがあふれるこの滝の一帯は、西表島有数のパワースポットでもあるという。滝のスピリチュアルな雰囲気もそうだが、森の中を歩いていると、「このガジュマルにキジムナー(精霊)がいてもおかしくないなあ」と、本当にそう感じてしまう。

帰りはカヌーでヒナイ川を戻る。マーレー川との合流点に来ると干潮の時間で、様相が一変。一帯はすっかり干潟になっている。カヌーを止めて、干潟を散策する。前方に小さな青っぽい物体がたくさん。何だ?

「ミナミコメツキガニです。集団で隊列を組んで移動するので兵隊ガニとも言われています。人の気配に敏感で、近づくとあっという間に砂の中にもぐってしまいますよ。ここから走って行って捕まえてみますか」

2人で10メートル先に向かってダッシュ。すると、どうだ。無数のようにいたカニ達はいつの間にか姿を消している。1匹も捕まえられない。だが、熟練のガイドは腕が違う。Ayaさんの手のひらには4匹のカニが。すごい!直径1㌢ほどの甲羅がブルーできれいだ。観察した後、砂地にも放してやる。目にもとまらぬ速さで、トルネードしながら濡れた砂を掘り潜り込んでしまった。直後に、そのあたりの砂をすくってみたが、姿も形もない。一気に深くまで潜ってしまうんだ。

マングローブの根元の浅瀬には、ミナミトビハゼがピョンピョン跳ねている。目が飛び出した顔の表情がユーモラスだ。白い大きなハサミを持ったシオマネキの姿も。潮が引いた干潟は小生物たちのパラダイスといったところだ。

さあ、帰ろう。干潮で川幅の狭くなったマーレー川の中心部を選ぶようにコースをとって、のんびりと漕いで行く。9時のスタートから6時間半。濃密なジャングルツアーにすっかり癒された一日だった。

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【西表島の宿・滞在】

西表島にはリゾートホテルも数軒あるが、地元の自然、島の事情に詳しいオーナーが経営する民宿の方が楽しいかも。今回泊まったのは、上原港から車で5分ほどの「西表島モンスーン」。(tel:0980-85-6019)

オーナーの亀井英俊さんは、ハワイでツアーエージェントやダイバー、石垣島では陶芸家をやっていたというマルチタレントの持ち主。客を出迎える2体のシーサーも手作りだ。趣味は釣りとヨット。宿の夕食にはオーナーが釣り上げた高級魚の刺身が。これが甘くてうまい!宿は6畳一間でシャワー、トイレ(洋式シャワレットタイプ)は共同。素泊まり3500円、1泊2食5500円(ハイシーズンは別料金)。建物は高台にあり、広い庭からは青い海を一望できる。2頭の馬と猫がマスコット。ハンモックに揺られて海を眺めるひとときはサイコーだ。

「ピナイサーラの滝1日感動コース」「島遊びまくりコース」「バラス島 半日コース」(シュノーケリング)など西表島の大自然とアウトドアライフを満喫できるツアー各種を実施している。

島内の移動はバスもあるが、本数が少ないので、レンタカーかレンタバイクが便利。レンタバイクは1時間500円(西表島モンスーンの隣の民宿マリウドで借りられる)。筆者は2時間借りて星砂の浜など島内のビューティフルスポットを巡り、スーパーで買い物も。ちょっとした周遊にはお手軽でいい。

ANA 南ぬ島スタッフの離島自慢

究極のジビエ料理と本当に何もない「陸の孤島」船浮の魅力

ブルーエースグランドサービス株式会社 空港部旅客課
巻嶋 太勝さん(左)
大城 亜津美さん(右)

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大城さんは西表島出身だけに、現地の情報はバッチリだ。小さなころから西表島の海と森の中で遊びまわって育ったそうだ。

「アウトドアと言われますが、私たちにとっては海や山は日常でした。海で泳ぐのはもちろん、釣りをする、モズクを採るといったことが生活の中に溶け込んでいました。祖父や父は山にわなを仕掛けて琉球イノシシを捕獲していました。お肉は刺身でも食べられるほど軟らかく、臭みもありません。イノシシ汁にしてもおいしいですよ。西表島にしかいませんから究極のジビエ料理ですね。時期にもよりますが、小さな居酒屋で食べられますよ」

島の9割が亜熱帯の森におおわれている西表島は、イリオモテヤマネコを始め希少な動植物が多い。自然保護にも力を入れていて、実は道路は島を一周していない。そこで陸地なのに船でしか行けない集落がある。島西端の船浮である。

「白浜港から定期船で向かいます。10分ぐらいですね。人口50人ほどの集落ですので、手つかずの大自然が残っています。イリオモテヤマネコが最初に発見された場所でもあるのです。海が本当にきれい。透明度が違いますね。集落の裏側にあるイダの浜はぜひ、一度訪ねていただきたい美しいビーチです。船浮湾の奥にある水落の滝もお勧めスポットです。川から海に直接滝が落ちているのです。カヤックに乗って水浴びができますよ」

 

東洋のガラパゴスともいわれる西表島の魅力は尽きない。次回は、「空飛ぶ! B級山歩き」番外編。サンゴのかけらでできたバラス島へのシュノーケリングツアーと星砂の浜の魅力をお伝えします。

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