富山への空旅 機窓には壮大な空中ショーが
快晴続きの5月中旬、羽田発8時50分のANA313便で富山きときと空港に向かった。ひと足早い夏気分を堪能した沖縄離島編から一転、今回は数メートルの残雪が残る立山連峰の美しい景色を楽しむ山旅へ。富山までのフライトは約1時間。機窓からは北アルプスの迫力ある山並みが目に飛び込んでくる。やがて海上に浮かぶ残雪の立山連峰の景色が。
壮大な空中ショーが続きます。
北陸新幹線の開通で北陸への空の旅を楽しむ人が減っていますが、この絶景を楽しむことができるのはヒコーキの旅ならでは。空港利用客を増やそうと富山県が行っているキャンぺーンのメリットもあります。富山の素晴らしい大自然とおいしいグルメ情報をお届けします。
千石城山(757m)タニウツギ、藤が咲き誇る花の山は戦国時代の山城跡
富山は文字通り山に富む県である。富山湾の深海から北アルプス、立山連峰の3,000メートル級の山へと続く急峻な地形は富山独特の世界だ。その富山の山歩きは地元の人々に親しまれている上市町の千石城山(せんごくじょうやま)からスタートする。この山は上市川第二ダムの湖底に沈んだ千石集落の後ろにそびえ、南北朝から戦国時代に権勢をふるった土肥氏が築いた「千石山城」があったという。「富山の百山」にも選ばれている。
登山口はダム湖(早乙女湖)から曲がりくねった車道を10分ほど進んだ所にある。展望櫓のある駐車場にレンタカーを止め、道を挟んだ登山口から歩き始める。13時30分。気温は24度。湿度が低くさわやかな高原の気候だ。疑似木の階段状の道が続く。晴れ上がった空の下、快適な山歩きである。新緑が鮮やかな登山道の脇にピンクの花が咲いている。タニウツギだ。癒される花である。田植えのころに咲くので「田植え花」ともいわれるそうだ。道沿いにはブナも結構目に付く。傾斜は全般に緩め。花を愛でながらのゆったりハイキングだ。
30分ほどでベンチのある展望台に到達する。樹林越しに雪の残った山並みを見ながらひと休み。「ホーホケキョ」。ウグイスが鳴いている。まだ成長になりきっていないのか、なんともぎこちない鳴き方で愛嬌がある。近くを黒い蝶が舞う。なんとものどかな光景だ。ここからは尾根をたどるように進む。降りてくるハイカーとあいさつを交わし、さらに歩を進めていくと、ツツジが控えめに咲いている。少し傾斜が急な階段を登りきると、山頂に到達した。登り始めてから50分ほど。空旅直後に楽しむにはちょうどお手頃の山だなあ。
山頂は残雪の劔岳を眺望する「自然の展望台」
山頂は広い。そして最高の景色が待っていた。さえぎるものがない広大な空間に、残雪の剱岳がバッチリ。青い空と白い雪のコントラストが鮮やかだ。両隣りに山々を従えた剱岳の雄姿は立山連峰の盟主にふさわしい存在感を放っている。剱岳に源を持つ早月川の川原が白く輝き、氷河のように見える。この山頂は、剱岳の絶景を楽しむ「自然の展望台」である。
大きな木のテーブルとベンチがあるので、コンビニで買ってきた鱒ずしとカニ風味かまぼこのおにぎりでランチ。富山の味を楽しみ、千石山城の由来の案内板の記述を読む。
「城は山頂部に二段の郭をもち、そこから延びる主尾根沿いには堀切群が設けられています」「居住性よりも防御性を極端に重視した城であったことがうかがえます」(上市町教育員会)
有事にはこの山城に詰めて敵の進軍を防いだのだろう。どっしりと構える剱岳が、兵たちの心の支えとなったはずだ。古の時代に思いを馳せる。
下りは展望台から奥の道に入り、10分ほどで林道に出る。峠の第二登山口となっているところだ。ここから林道をのんびりと下りていく。道の脇にタニウツギが咲き誇っている。しばらく行くと紫の花が。藤の花がこれでもか、これでもかとたわわに咲いている。みごとな光景に立ち止まって撮影タイム。いい時季に訪れたなあ。15時40分、登山口に戻ってきた。休憩を入れて2時間ちょっとのお手軽ハイキングだったが、充実感は濃い。富山の山歩き第一弾は絶好調のスタートとなった。
【名水の王国】古くから目の病に効くとされる大岩山日石寺の藤水
北アルプス、立山連峰からの雪解け水が急流を下り、大地を潤して富山湾に流れ込む。そんな土地だけに至るところに湧水スポットがある。環境省選定の「名水百選」「平成の名水百選」に富山からは8カ所が選ばれている。まさに「名水の王国」である。
千石城山からの帰り道、真言密宗の大本山「大岩山日石寺」に立ち寄った。古くから目の病に効くとされ、眼病が治ったという話も数多く伝えられている御霊水で、富山県名水百選に選定されている「藤水」を味わうためだ。百段余りの石段を上って境内に入り、本尊の不動明王に参拝してから藤水に。冷たい清冽な名水でのどを潤し、まぶたの上から水をかけてみる。少しは視力が良くなるだろうか。すぐ隣にある六本滝は、冬場、寒修行を行う滝。心身ともに清められそうだ。
【富山空港利用促進キャンペーン】羽田-富山便往復で県内宿泊ならレンタカー料金が3割引きに
北陸新幹線の開通までは北陸の玄関口のひとつだった富山きときと空港だが、新幹線開通後は利用客減少が続いた。このため県は空港利用客を増やすためのさまざまな取り組みを実施している。昨年3月、県庁職員に対して、首都圏方面への出張の際は原則、(価格の安い)飛行機の特割を利用するという通達を出してバックアップ。さらに法人利用を促進するため「富山きときと空港企業サポーターズクラブ」(入会金・年会費無料)を創設した。搭乗回数に応じてポイントがたまり、モノレール乗車券、空港食事券、羽田便のプレミアムクラス片道航空券などと交換できるシステムだ。地元の有力企業や自治体はもちろん、県外の企業なども参加し、現在の参加数は約310となっている。
最近始まったのが、レンタカー利用客への30%OFFキャンペーン。羽田-富山便往復利用で県内に宿泊する場合はレンタカー代が30%割引になる(上限4,500円)。2017年の2月28日まで実施中だ。浮いたお金で富山のグルメを堪能したい!
ANA 富山きときと空港スタッフの富山自慢
山の達人のお薦めは雄山(立山)、尖山、大辻山です
富山地鉄サービス株式会社 航空部 富山空港営業所 旅客課
金谷 麻衣子さん(左)
吉田 佳織さん(右)
ANAの富山空港所所長は白井尚子さん。全国51ある空港で唯一の女性所長だ。その白井さんの紹介で、金谷麻衣子さんと吉田佳織さんにお話をうかがった。おふたりとも職場の同僚と年に何回か県内の山を楽しむという山ガールで、小学生の時には学校登山で立山の雄山(おやま)(3,003m)に登ったという。
「薬師岳や奥大日岳も登りました。山頂からの景色が最高です。下山後は温泉でまったりですね。本当にいい気分転換になります」
「富山のお薦めの山を」と尋ねたところ、「実は職場に山の達人(男性)がいまして、事前に3つの山をリストアップしてもらいました」とうれしい答え。その三山とは。
①雄山(3,003m)
立山三峰のひとつ。みんなが知っている名山で日本三霊山の一つとされる信仰の山。(富山では)小学生が遠足で登る。
②尖山〔とがりやま〕(559m)
1時間ほどで登れる手軽な山。「UFOが着陸する」という説があるパワースポット。頂上のストーンサークルでは磁場が狂っている場所がある。
③大辻山〔おおつじやま〕(1361m)
立山信仰の修験者が通ったと言われる山。山頂からの立山連峰の眺望は絶品!
山歩き以外のアウトドアライフの楽しみも多い。
「最近は黒部川の急流でラフティングを楽しまれる方が増えています。黒部峡谷のトロッコ電車もいいですよ。秋は紅葉がみごとです。氷見線の雨晴海岸から見る海上に浮かぶ立山連峰は絶景。それと魚津沖で春先の天気のいい日に見られる富山湾の蜃気楼。どちらも、ぜひご覧になっていただきたいですね」
富山編第1回目、いかがでしたか。次回は海抜ゼロ、日本海のヒスイ海岸から800メートル余りを直登する大鷲山(おおわしやま)の山歩きをレポートします。