パリジャンたちがヴァカンスに出かけてしまったパリは、ガランと静まり返っています。
いつもなら路上駐車であふれる道も、すっからかん。交通量も少なく、どこへ行くにも最短時間。人や車が消えてしまったスッピンのパリは美しく、見慣れたモニュメントも目鼻立ちがはっきり見える気がします――人ごみが当たり前の日常と比べてとても過ごしやすく、街を独り占めしている気分さえ味わえるのが8月のパリでした。
左:人や車が少なく、空気が澄んでいる8月のパリ。
右:パリじゅうを見わたせるマドレーヌ地区のとある窓から。サクレクール寺院まではっきり見える。
ただ、レストランやお店はほとんど休んでいるので、話題のお店に行きたい! という方々にはあまりおすすめできない時期なのですが……。
8月20日ごろを過ぎると、街にはぼちぼち人が戻り始めます。それをいちばん実感するのがマルシェ。3分の1ほどに減っていた出店数も回復し、真っ黒に日焼けしたパリジャンたちが、それぞれのヴァカンスや新しい年度を迎える準備(フランスでは9月に新学期を迎える)の話で盛り上がります。そして、マルシェに同時に並ぶ夏野菜と秋野菜を見て、季節のバトンタッチを実感するのです。
そのなかに、夏の終わりを告げる果物があるのをご存じでしょうか。
8月半ばから9月はじめまで、1カ月弱しか顔を出さない「ミラベル」という名の果物。すもも科の黄色い小さな果実で、その生産の約9割がフランス・ロレーヌ地方です。けっして高価なものではありませんが、とても短い時間しかお店に並ぶことのない希少な果物で、フランス人はみんな、そのはかないミラベルの季節を楽しみにしています。プルーンよりも甘さ、香りが強く、ねっとりとした食感がクセになり、食べ始めたら止まりません。
左:ガランとした8月のマルシェ。
右:黄色いミラベル(右)と緑のレーヌ・クロード(左)は、どちらもとっても甘くおいしい。
ほとんどの果物が1年じゅう食べられるようになってきましたが、ミラベルはこの時期にしか食べることができないので、コンポートにしたり、ジャムにしたり、保存作業に勤しむのもこの季節の楽しみのひとつです。
私は生で食べるのがいちばん好きですが、ミラベルを使ったお菓子もとても美味。焼き菓子にすることがほとんどで、パイ生地にミラベルをのせて焼けば立派なタルトになるし、クラフティやクランブルにするのもおすすめです。なかでも、クランブル生地はつくりおきができるので、同じくつくりおきしたミラベルのコンポートを使えば、とても簡単にクランブルが完成します。
左:ミラベルの実は、熟れてくると赤い斑点が出ていちだんと愛らしくなる。
右:コンポートでクランブルをつくる。クレームフレッシュを添えて。
【材料】
<クランブル生地>
砂糖…大さじ1
バター…15g
小麦粉…20g
アーモンドパウダー…20g
<ミラベルのコンポート>
ミラベル…300g
砂糖…大さじ1
【つくり方】
1. クランブル生地をつくる。砂糖、小麦粉、アーモンドパウダーをビニール袋に入れてよく混ぜ合わせ、細かく分けたバターを加え、粉類と混ざるよう袋をもむ。指の体温でバターが溶けてくるので、だいたい混ざったら冷凍庫で寝かす。
2. コンポートをつくる。ミラベルはよく洗い、半分に切って種を取る。これを砂糖とともに鍋に入れ、約15分煮たら完成(実の形が残るくらいがおすすめ)。粗熱がとれたら冷蔵庫で冷やす。
3. 1を冷蔵庫から取り出し、再び袋の上から生地をもんでそぼろ状に細かくする。これを耐熱皿に入れ、こげないよう注意しながらトースター(低音)で5分ほど焼く。
4. うつわに2のコンポートを盛り、焼きあがったクランブルをふりかけ、クレームフレッシュを添えていただく。耐熱皿にコンポートを敷き、クランブル生地をのせてオーブンで焼きあげてもよい。
この黄色い実が街から姿を消すころ――フランスは本格的な秋を。