気温はぐんっと下がりましたが、パリは気持ちのいいお天気が続いています。太陽から身を守る日本人とは対照的に、太陽のあるほうへと向かうフランス人。晴れていれば、たとえ少しくらい寒くても、われ先にとカフェやレストランの陽のよく当たるテラス席を陣取っています。
左:寒いなか、太陽を求めてテラス席でがんばるフランス人たち。
右:いくらお天気でも、レストランの中の温かい席でゆっくりくつろぎたい私……。
ヨーロッパの人々は暗く長い冬を過ごすため、少しでも太陽が出ると、その光に焦がれるようにして外へ出ます。パリに住み始めた当時はその行動を不思議に思っていましたが、10回以上ヨーロッパの冬を越した今では、人々が太陽を求む気持ちが少しわかってきた気がします。とはいえ、私みたいな寒がりは、いくらお天気でも、太陽も風も当たらない店内奥の暗~い席で大満足しているのですが……。
フランスといえば、カフェやレストランがひしめくイメージ。どのレストランに行くか迷うことがあっても、行きたいレストランがなくて困るということはありません。
10月に入ると、フランスのレストランでは本格的にジビエ料理が食べられるようになります。フランス語で「Gibier(ジビエ)」とは、狩猟によって食材用に捕獲された鳥獣のこと。9月末(2016年は9月18日から)、狩猟が解禁されると、マルシェには毛や羽がついたままの鳥獣が並び始めます。パリに暮らし始めたころ、お肉屋さんのショーウィンドウの上にだらっとイノシシが横たわり……ガラスにしたたる血筋を見たときは……頭をぐっと反対に向けて見ないように通り過ぎていましたが、そんな自分が数年後、この季節を楽しみにするようになるとは。
左:レストランのピカピカのキッチンに横たわるのは、調理前の青首鴨と雷鳥。
右:マルシェに並ぶ Gibier a plume(羽のついたジビエ=鳥類)。
私も、この時期は欠かさずお気に入りのレストランでジビエ料理をいただいています。高タンパク、低カロリーなジビエ肉ですが、独特のくさみとクセがあるので、調理法を知らないとおいしく食べられません。野生ですから、なかには寄生虫がいるものもあるようですし、鹿やイノシシなどはE型肝炎を保菌している恐れもあるというので、信頼のおけるシェフが選び、正しく調理されたものを、安心していただきたいですね。そんなわけで、マルシェでジビエを見かけても見学のみ。自分で調理したことはありません。
比較的食べやすいのは、コルヴェール(青首鴨、真鴨)、ヤマウズラ、キジ、雷鳥などの「Gibier a plume(羽のついたジビエ)」と呼ばれる鳥類でしょうか。「Gibier a poils(毛の生えたジビエ)」と呼ばれるイノシシや野ウサギはもっとクセが強いので、私はラグー(煮込み料理)にされたものしか食べたことがありません。特にイノシシのラグーはとっても美味で、この時期にイタリア、特にトスカーナ地方に行くことがあれば、ぜひイノシシのラグーパスタを試していただきたい。赤ワインでじっくり煮込まれたコクのあるソースが平たい生パスタに絡み、こんなにおいしいパスタは食べたことがない! というほど感動したことを覚えています。
左:青首鴨とフォアグラ。足の部分はコンフィにしてあり、2種類の調理で楽しむ。
右:ともにレストラン「Philou」(12,Av.Richerand 75010 Paris)にて。ジビエ料理は前田シェフの得意料理。
ジビエ料理は、もともと高級料理だったことでも知られています。なぜなら、狩猟はヨーロッパでは古くから貴族文化のひとつであり、フランスでは革命以前は貴族の特権とされ、庶民には許されていなかったから。狩猟の許された「貴族のみが口にできる料理」だったとことから、特別な料理として今日まで伝わってきたのでしょう。手間ひまがかかり調理も難しいので、どのレストランにもあるとは限りませんが、かといって、とびきり高価というわけでもありません。
ジビエの旬は、野生動物がこれから迎える冬に向けて脂をたくわえる10~11月。この時期に、ぜひジビエ料理をお試しください。
<余談>
狩猟は「グループ(フランス語ではequipage/エキパージュ)」で行うため、貴族たちはお城に滞在し、昼間は狩猟を、そして夜はパーティを、といったプログラムで楽しんでいたそうです。狩猟に行くことが、貴族同士の出会いの場にもなっていたというわけ。今では狩猟のライセンスさえ持っていれば誰でも行うことができますが、いまだ(元)貴族のたしなみであることには変わりなく、(元)貴族とブルジョワジーのみで成り立つ〝ハイソな狩猟コミュニティー〟なども存在するようです。潜入してみたいものです。