「ジャスパー(Jasper)」という石をご紹介する前に、耳慣れない言葉かと思いますが、「珪化木(けいかぼく)」というものについてお話ししましょう。広辞苑を引くと、「地下に埋もれて珪化した樹幹の化石」となっています。では、この「珪化(けいか)する」とはどういう意味でしょうか。これは大昔の樹木が地中に埋もれ、そのままの姿で二酸化ケイ素(シリカ)に変化したことを言います。
もう少し具体的にお話しすると、その大昔とは2億~2億5,000万年も前のことです。普通、樹木というのは地上で朽ちて姿を消します。でも、何らかの自然現象で樹木が朽ちる前に地中に埋没し温存されることがあり、その代表的な例が「石炭」です。また、地中に埋没した樹木の上層部に、二酸化ケイ素が大量に含まれた火山灰などが堆積されることもあります。その場合は、地下水に二酸化ケイ素が溶け込み、やがてそれが樹木の細胞にもしみこんで石英の結晶となり、樹木の形のままの化石ができあがります。これが「珪化木(けいかぼく)」と言われるものです。
実は、この「珪化木(けいかぼく)」も「ジャスパー」のひとつなのです。アメリカのアリゾナ州にある「化石の森国立公園」はこの「珪化木」がゴロゴロと地表にせり上がってきていることで有名です。私はこの公園の「珪化木」の光景は、写真でしか見たことがありません。でも、樹木の年輪までわかるほどリアルな大木がそのまま石と化していることには、人類誕生のはるか以前からの悠久の時の流れを感じずにはいられないのです。
さて、ここまでの説明で、「ジャスパー」が水晶や瑪瑙(めのう)といった二酸化ケイ素を主成分とした鉱物であることはお分かりいただけたと思います。では、いったい「ジャスパー」は、水晶や瑪瑙(めのう)とはどこが違うのでしょうか? 違いは二酸化ケイ素の中に含まれる不純物が多いことです。不純物が多くなると何が違ってくるかと言えば、石の透明度が低くなるのです。水晶、瑪瑙(めのう)は透明から半透明といった範囲に入りますが、「ジャスパー」はまったくの不透明です。でも、色が濁っているわけではなく、とてもきれいです。ちなみに「ジャスパー」は、和名では「碧玉(へきぎょく)」と言います。碧玉の「碧」は青ですから、「青い石」と思いがちですが、実際には青も含めていろいろなカラーバリエーションがあります。
こうした石の色は含まれている不純物とその量によって異なります。酸化鉄が多ければ赤系の色、緑泥石が多くなれば緑系の色、水酸化鉄が含まれていれば暗黄色や黄褐色といった具合に変化します。また、石の模様も千変万化! まるで自然が描いた抽象画を見るようで、西洋ではこの模様を活かした彫刻やジュエリーがたくさん見られます。
一方、この石は日本でも古代から採掘されていて、島根県玉造の花仙山(かせんざん)で採れた緑色の「碧玉(ジャスパー)」は勾玉(まがたま)の石として使用されていたとのこと。因みに、勾玉とは日本独特の護符で、魔除け、幸運招致の石として使われてきました。まさに「ジャスパー」は古代の日本においてもパワーストーンの代表格であったと言えますね。
次回は、「ジャスパー」のパワーストーンとしての側面をお話ししましょう。
結城モイラ記