『アメリ』の脚本家ギョーム・ローランが書いた小説が原作。「右手」がだんだん人間に見えてくるから不思議。 画像を見る

家の中で楽しめるエンタメや流行を本誌記者が体験する“おこもりエンタメ”のコーナー。今回は、フランスアニメ映画『失くした体』をご紹介します。

 

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日本の漫画やアニメにいち早く注目したのはフランスで、記者は’07年にパリで漫画・アニメブームを取材し、その熱狂ぶりに驚きました。以来、アニメ制作を教える現地の学校も増え、日本とは違ったフランスらしいテイストのアニメも生まれています。『失くした体』は、人生の不条理や恋の切なさを描いた傑作です。

 

いつも無気力なピザの配達人ナウフェルは、遅刻をしては職場で叱られる青年。幼いころは宇宙飛行士かピアニストになるのが夢でしたが、両親を交通事故で失い、幸せだったころを思い出してばかり。ある日、配達先でガブリエルという女性とインターホン越しに話をし、数日後、偶然を装って彼女の叔父の木工店に転職します。

 

そんな彼の人生と交互に描かれるのは、「右手」の冒険。冷蔵庫の中の切断された右手は、まるで強い意志を持っているかのように脱出し、パリの街を突き進みます。ネズミに襲われたり犬にくわえられたりと危険な目に遭いながらも、どこかを目指してさまようのです。

 

果たして右手はどこに行きつくのでしょう? 旅する右手に、記者はとても哲学的なものを感じました。厄災のメタファーとされるハエが随所で登場し、不吉な影が付きまといますが、予想を裏切るエンディングが待っています。きっと多様な解釈が楽しめる秀作です。

 

(文:西元まり)

 

「女性自身」2020年6月2日号 掲載

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