「ケンポー、マモレ!」

「戦争法案、絶対ハンタイ!」

「戦争したがる総理はイ・ラ・ナ・イ!!」

ドラムのリズムに身を委ね、体を小刻みにゆすりながら、彼女はマイクを手に叫んでいた。6月12日。夕闇に包まれた首相官邸前には、約1000人が集結しデモが行われていた。群衆の前で声を上げていたのは、都内の音楽大学を卒業した紅子(べにこ)さん(24)。彼女を取り囲むのも10代〜20代の若者ばかりだ。

 

プロの歌手を目指し、ボーカルレッスンを積む紅子さんが、ほっそりとした体からハスキーな声を絞り出すように鋭利な言葉をマイクにぶつけると、周囲が一斉に呼応する。ストリートファッションに身を包んだ若者たちが、同じように体をゆすり、拳やプラカードを突き上げる。まるで、ロックフェスのワンシーンのようだ。

 

「ダサくない、圧倒的にカッコいいデモをやりたかった」

 

こう話すのは、このデモを呼びかけた「SEALDs(シールズ)というグループの中心メンバー・奥田愛基さん(あき・23)。シールズは、安倍政権が強引に推し進める安全保障関連法案(以後、安保法案)を止めるため、これまで政治に無関心と思われてきた10代〜20代の若者たちが立ち上げた。毎週金曜の夜に、国会前や官邸前でデモを行う。いまも、全国にメンバーは増え続け、彼らはLINEを通じて連絡を取り合う。7月3日現在、関東で157人、関西で105人がシールズのメンバーとしてLINEに登録している。

 

コールの前、紅子さんはスピーチもした。それは次のように締めくくられた。

 

「私、今日ここに来る前に、来月、海行くときに着る水着を買ってきて、マツエクいくつつけようかな、とか悩んでました。なんか、そういうことで悩んでいる人間が、政治について口を開くことはスタンダードであるべきだし、スタンダードにしたいから、そうなるまでは繰り返し声を上げ続けなくてはいけないんだと思ってここに立っています」

 

ネット動画でこのスピーチを見た大人たちが、いっせいに「マツエク」を検索するなど、20代女性の等身大の言葉は大きな反響を呼んだ。紅子さんが現在の政治状況を「マジでヤバイ」と思い始めたのは昨年6月。憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認が閣議決定される1カ月ほど前だった。危機感を募らせ、共感できる同世代の意見を探した。そこで見つけたのが、シールズだった。

 

「政治の話をすると、煙たがる友達もいたし、ツイッターで安倍批判したら友達からフォロー外されて、ズキッと心が痛んだこともありました。でも細かいことを考える前に『今、デモ行かなきゃ後悔する』と思ったんです。私と同世代のコたちは“政治=難しい”と思って、どうしても無関心になってしまう。それを変えるためには、堅苦しい説明じゃ絶対誰も聞いてくれないから。なるべくいつもの自分の言葉で説明しようと思ったんです」

 

だから水着とマツエクだった。初めてのスピーチの後、紅子さんのツイッターやフェイスブックには続々と彼女を支持するメッセージが寄せられた。あれだけ政治を語る彼女を煙たがっていた友人たちからも「かっこよかった!」「感動して、泣きそうになった!」と、賞賛の声が届いた。

 

「政治の話題に、ふだんほとんど反応のないコからもメッセージがきました。それがいちばんうれしかった」

 

北海道札幌市在住の西なほみさん(18)は、6月初旬、ネット上で論戦を繰り広げ、ちょっとした有名人になった。彼女もシールズの一員だ。

 

バトルの相手は自民党の礒崎陽輔議員。総理の側近で「国家安全保障担当内閣総理大臣補佐官」という肩書まで持っている。そんな偉い先生が6月9日、ツイッターで呟いた。

 

《集団的自衛権とは、隣の家で出火して(中略)「うちはまだ延焼していないので、後ろから応援します」と言って消火活動に加わらないで、我が家を本当に守れるのかという課題なのです。》

 

このツイートを目撃した西さんは「は?違うだろ」と、すぐ次のように反論した。

 

《まず例えが下手。戦争と火事は全く別物だし。戦争は火事と違って少しでも他国の戦争に加担すれば自国も危険にさらす。しかもその解説は個別的自衛権でも十分対応可能です。集団的自衛権と個別的自衛権を勉強してくれないと議論ができません》

 

やりとりが数回続いた後、磯崎議員は彼女が納得いく回答を出せないまま、西さんをブロック。それを見たほかのユーザーからは「大人げない」「情けない補佐官だ」と辛辣なコメントが数多く寄せられた。

 

6月26日。毎週金曜日のデモは続いていた。この日はあいにくの雨。それでも国会前には2,500人が集まった。デモは日増しに規模を拡大している。札幌の西さんは言う。

 

「とはいえ、全体から見ればまだまだ一部だから。もっと安保法案ヤバいって雰囲気をつくらないと。法案を止められなかったとしても、自分の意思表示を何もしないまま好き勝手にされたくない。イヤならちゃんとイヤと言う。それが当たり前の国にしたい。いま何も言わず、将来、子供が生まれたとき戦争する国になってたら、絶対自分を責めると思うから」

 

雨の国会前にはシールズのメンバーの両親や祖父母世代の参加者も。奥田さんは言う。

 

「ぼくらの記事読んだ人が『お、若者、頑張ってる、えら〜い』って感じだったら……。『いやいや、それ違うって。これ、あんたの問題だと思うし』って言いたいかな。大人とか若者とか関係なく、いまのヤバい状況を自分のこととして受け止め、動いてください、と」

 

いまこそ、未来のために。一人ひとりが自らの意志で、声を上げるときだ。