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(写真・AFLO)

「(築地市場の移転先である豊洲新市場の)青果棟、水産棟などにおきまして、じつはこの4.5メートルの盛り土が行われていなかったのではないか、そして、それはいったいどうなっているのか、といったような疑問が出てきたわけでございます……」

 

9月10日、土曜日の夕刻に突然行われた緊急会見で、小池百合子東京都知事(64)はいつになく緊張した面持ちでこう語った。これまで東京都は、“発がん性物質”ベンゼンなどが検出されていた豊洲の敷地の地表の土壌汚染対策として、2メートルの土壌を掘削し、新たに4.5メートルの盛り土をしたと説明していた。しかし、それが実際には、建物の直下には盛り土がされておらず、地下空間が広がっていたのだった。この会見が開かれるきっかけとなる調査をした、日本共産党都議団の尾崎あや子氏(58)が経緯を説明する。

 

「私たちは、9月7日に水産卸売市場棟の地下を訪れました。すると、ドアを開けた都のスタッフが『水があるので入れません』と言いだしたんです。真っ暗な地下空間を懐中電灯で照らすと、底面には水が溜まっていた。測ってみると深さは1.2センチほどでした。

14日には青果棟地下に入ったのですが、そこにはまた最大で深さ20センチの水があった。それを採取して試験紙で確認すると強アルカリ性。つまり、汚染された地下水が漏れ出している可能性が出てきたのです」

市場移転問題に詳しいジャーナリストの加藤順子さん(42)はこう話す。

 

「共産党都議団の公表と都知事の緊急会見で、都がこれまでしてきた発表をなんら信じられなくなったというのが、都民の感情だと思います。当初は、移転は11月7日の予定だったわけですから、小池都知事の『当面の延期』という判断は、現実的な選択という印象でした。先週までは『いつ移転するのか』という時期が大きな関心事にされていましたが、『中止』という選択肢も現実味を帯びて来たのでは……」

 

じつは小池都知事は、市場移転問題に関して’08年に出版した『東京WOMEN大作戦』(共著・小学館刊)で、こう明言している。

《築地市場は、東京の台所である。その台所をベンゼンやアセンといった危険極まりない物質を含んだ土地に移すことは、率直に一生活者として不安である(中略)工法を工夫しながら、現在の場所(=築地)で建物だけを建て直すのが一番妥当と思われる》

 

この築地改築という“腹案”について「都知事選出馬以前の単なる“机上の空論”ではない」と話すのは、東京都の財政事情に詳しい経済評論家の加谷珪一さん(47)だ。

「私は、都知事が『移転中止』の決断をする確率は60%ほどあると思います。これまでに発表されている豊洲新市場の総予算およそ6千億円を、都は今日までにほとんど使い切ってしまっています。では築地をアスベスト対策や耐震構造なども含め全面改築する場合はというと、3千400億円ほどかかるという試算を、’08年に都が発表しています」

 

つまり、移転中止を決断した場合、豊洲にかけた費用約6千億円と築地の修繕費約3 千400億円の計約1兆円の金額を要することになる。しかし加谷さんは、

 

「移転中止して築地を改築すれば、都民1世帯当たり5万円ほどの税金が使われることになりますが、これは豊洲の約半分で済む計算です。

確かに豊洲の約6千億円がすべてムダになりますが、5万円程度の負担で“食の安全”を得られるのであれば、経済合理性から考えると、中止は現実的に『あり』でしょう。築地の建物を数ブロックに分けて順に工事していけば、営業しながらの改築も可能です。小池都知事も胸中ではもう一度、改築を検討し始めているのではないでしょうか」

 

さらに、すでに1千万円近く設備費などに先行投資した仲卸業者などへの補償も数十億円程度で、10兆円規模の都の一般会計にしてみれば大した金額ではない、と加谷さんは話す。前出の加藤さんは、

 

「東京ガスの工場跡地で汚染がわかっていたはずの豊洲への移転を都が’01年に決定した際、石原慎太郎元都知事(83)は、9月13日のテレビ番組で『僕はだまされたんですね』などと発言しました。でも騙されたのは築地の人と都民のほうですよね。発言が無責任すぎる。翻って小池都知事にはここが正念場、いまが都政への信頼を取り戻すチャンスではないでしょうか」

 

はたして、近々“大どんでん返し”の決断があるのか、小池都知事の動向に目が離せない。

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