「妊娠・出産・育児の悩みをひとりで抱えている女性のサポートを『東京都が率先して進めるべきだ』という趣旨で発言していたときのことでした。『はやく結婚したほうがいいんじゃないか?』『産めないのか?』。こんなやじを男性議員から浴びせられたんです。ほかの男性議員からも笑い声が起き、バカにしてやじったりというのが延々と続きました……」
いまも込みあげる悔しさを押し殺すようにして話すのは、塩村文夏・東京都議会議員(38)。晩婚化が進み、高齢出産が増える東京都で、女性の声を代弁して訴えかける彼女を’14年6月に襲った「セクハラやじ問題」は当時、大きく報道され、「声の主」と名乗り出た男性議員は塩村さんに謝罪した。
やじの直後は、「何十分もやまない笑い声に、悔し涙が出ました」という彼女だが、同時に都議会という“伏魔殿”のオッサン政治体質も、広く知れ渡るように。結果として、都議や地方議員の言動への関心を増やす役割も果たした。
その後も小池百合子都知事(64)の誕生と都政改革などで都政への関心は高まるばかりだが、現在は、7月2日投開票の東京都議会議員選挙の選挙期間中。各候補者が連日、選挙演説などで火花を散らしているなか、立候補せずに「次回の衆議院議員選挙に民進党公認で立候補する予定」という彼女に、4年間経験してきた“伏魔殿”の正体について話を聞いたーー。
「セクハラやじ自体は私に浴びせられたものですが、やじの主である都議たちは、私が女性の悩みを代弁している=『一般の女性の声』でもあるということを忘れているんです。つまり、税金で都民のために働いているのが都議だということを忘れちゃっていると思うんです。それはそうですよね、都議になった途端、『先生』と呼ばれるんですから」
いまや一般のビジネスシーンでも、女性に「子どもはまだか?」などと言うことが立派なセクハラになることなど常識になりつつあるがーー。塩村さんは都議会を「何十年も昔の世界」だと実感したのだという。
「保守的な男性に占められている議会では、古い慣行がまかり通っています。こんなことがありました。ある委員会で私が、都の取り組みに対して質問したとき、担当職員が詳細に説明してくれたんです。でも、それを遮るように、大会派の男性都議が『おい、ずいぶんサービスいいじゃないか!』と、ムッとして大声を出した。そしたら職員の顔色が一瞬で青ざめたんです。職員は議員の顔色をずいぶん気にしているんだなとわかりました」
そういう「恐怖支配」がつづく都議会は、会派の議員数で力関係が決まってくるのだという。
「大会派が数にモノを言わせて支配しています。私は『東京みんなの改革』というひとり会派を代表していましたが、私ひとりが何を言っても通じないですし、都の職員も数の多い大会派を向いています。大会派に属していれば、献金や政党からの支援もあり、金銭面でもかなり優遇状態です。数に頼って中にいることが、快適になってしまうんでしょう」
そのように、一度つかんだ利権を、徒党を組むことで守ろうとするオッサン議員たちがいる。では現在、男性都議101人、女性都議25人と、塩村さんを含めても20%に満たない女性議員は、どのようなスタンスなのだろう。こう問うと塩村さん、「じつは……」と言って、意外な真実を告白する。
「圧倒的な男性社会、政治の世界で“のぼっていく”女性都議のひとつのパターンとして、男性都議に近いような意見を言って、男性に迎合してしまう女性が少なからずいるんです。マイノリティを締め出そうとするのが男性であれば、それに対して『そうじゃない!』と闘う女性都議を増やさなければいけないのに……」
その象徴的な経験として、塩村さんは次のエピソードを明かす。
「’15年に議会改革について話し合う場として、『議会のあり方検討会』が発足したんですが、ひとり会派の私を含めて数人が入れてもらえず、そこで何が話されたのかも知らされませんでした。それは参加要件が『3人以上の会派』限定だったからです。じつは女性が幹事長を務めているある会派が『複数の議員で構成されている会派から意見を聞くべきだ』と主張していたんです。大会派に加担してイジメてくる、後輩たたきしてくるのは、女性都議だったんです」
なんと塩村さんは、男性都議のみならず、女性都議も利権にすがりついていたと言うのだ。
「むしろ本当にタチが悪いのは、女性議員ですよ。女性同士のイジメのほうが陰湿といいますが、女性のほうが政治家としての経験値が上がっていくと、イジメも巧妙になっていく。足を引っ張るような“オッサン化”した女性議員になってはダメなんです!」