「レタス生産量日本一の村」として知られる長野県南佐久郡川上村。高原野菜の栽培に適した自然環境と、東京まで車で3時間という地の利を生かして都市部への農作物の供給基地としての地位を確立した。同時に、ブランドとなった川上村のレタスや白菜を作る農家の収入も上がり、人口4千759人の小さな村だが、世帯あたりの平均年収は2千500万円を超える。

 

少子化などで全国的に若年人口が減少するなか、長野県の最東部に位置する川上村では働き盛り世代が大きく減らずにいる。国立社会保障・人口問題研究所の将来予測では、2040年時点で15~64歳までの「生産年齢人口」が全国の市町村で6位の61.9%。上位は新宿区などの大都市ばかりで、地方の農村でこの数字は画期的。

 

また、村の嫁たちの7割が東京など都会から嫁いできていて、若者たちの定着率も高い。こうして若い人が増え続けていることと、高収入もあって今、川上村は「奇跡の村」と呼ばれている。いったいなぜ、川上村にどんどん若い人が集まるのだろうか。それには以下のような理由がある。

 

【環境に不慣れな奥さんを助ける若妻会】

「うちの集落の若妻会は10人ほどで、年齢は20代前半から30代後半、2カ月に1度の集まりがあります。花壇の世話や村内の掃除などをします。関西などから嫁いできた人もいて、私も当初、生活の不安を訴えたところ、『最初はみんな、そうだったよ』と聞いて、それだけでずいぶん気が楽になりました」(白菜農家、山中ひとみさん・30)

 

【濃密な近所付き合いで助け合う】

「当初、私は村の人を知らないのに、周りは私のことを誰もが知ってたり。結婚式後には、着物を着て自分の名前入りのタオルを持参して近所や親戚を回りました。でも、そのおかげで、翌日から会う人がみなさん、『困ったことはないかい』『おかずのお裾分け』と声をかけてくれる。村全体が助け合って生きてるんだと実感しました」(同)

 

【生活にメリハリがある。夏場は仕事に集中し冬は遊ぶ】

「父親の時代は今よりもっと景気もよくて、1年の半分を働いて、あとの半分は旅行という生活もあったようです。でも、僕らの世代は冬もアルバイトをしたりします。ただ、今も夏に家族で集中して働くという川上の農業の伝統は変わりません」(前出のひとみさんの夫、貴博さん・27)

 

【教育環境の充実】

「県の採用ではない、村で雇った村費教員が小中学校で6人います。図書館も村民のICカードで24時間利用できます」(藤原忠彦村長・74)

 

【静かな環境】

1987年の、いわゆるリゾート法のときは、あえて指定を返上した。「レタス畑にゴルフ場は似合わない」という判断だった。こうして観光客に頼らなくてもいい、働くにも子育てにも恵まれた静かな生活環境が確保された。

 

【医療の充実】

「一般的に危篤になると病院へ運ばれます。川上では逆に病院から家に連れ帰り、訪問看護ステーションと家庭、地域が連携して看取ります。川上村では4割が在宅死です」(藤原村長)

 

【外国人労働者も受け入れる】

‘04年からは中国人研修生を受け入れている。その数は今年も800人。前出の山中家でも3人の中国人が働いていた。都会からの嫁同様、外部の人間も受け入れる開放的な村民の人柄が、この先駆的な制度を支えている。

 

白菜農家のひとみさんは、村の魅力をこんな言葉で。

 

「達成感。OL時代も仕事のやりがいはありましたが、その目標は誰かから与えられたもの。川上村では、夫婦で収穫の目標や農閑期のプランを立てて、夏は家族全員で頑張る。畑で土まみれになって収穫を終えて一休みしているとき、かつてなかった達成感を味わっている自分に驚いたりしています」

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