「現在福島では、避難生活を送る方のアルコール依存症が問題になっています」と語るのは、被災者の心のケアにあたる福島医科大学「災害こころの医学講座」前田正治教授。

 

「とくに農家の方は転職先もなく、昼間やることがないため、精神的なつらさからお酒に走るケースが多い。ほかにも、家庭を失った喪失感も大きな原因です。震災から3年がたっても復興が進まないため、お酒による健康被害が深刻化しているのです」(前田教授)

 

実際、郡山市にあるアルコールをはじめとした依存症専門外来「大島クリニック」では、重症患者が増加中だという。

 

「震災から1年未満で治療につながった患者さんは治療成績がよいのですが、今年になって受診をしに来た人をみると、肝硬変が重症化していたり、物忘れがひどくなっていたり、糖尿病で足がまひしているなど、当院での治療がすでに難しいケースが目立ちます」(大島直和院長)

 

最初は過剰飲酒を止めるように声をかけていた隣人も、借上げ住宅に移ったり諦めて声をかけなくなるなどして、当事者がさらに孤立化していくことも、重症化の背景にはあるそう。

 

「阪神・淡路大震災のときは、震災後3年目ごろから、長引く避難生活からくる過労や体調不良が引き金になる震災関連死の報告が増えていますが、なかでもアルコールに関するものが多かった。お酒がうつを直接引き起こす場合もありますし、衝動性を増幅させるため、自殺の危険性が高まるのです。福島に限らず、被災地ではこれからこうした問題が顕在化してくるはず。至急の対策が必要です」(前田教授)

 

生きづらさから逃れるようにアルコールへ走る人々ーー。被災地で悪化する依存症の問題は、景気後退や格差社会、無縁社会が叫ばれる日本の未来をも予見させる。決して、人ごとではないのだ。

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