国民の8人に1人が75歳以上の高齢者である現代の日本。「高齢を理由に適切な手術を拒否されている人、あきらめている人がいるのはおかしいと思いませんか?」。心拍動下(オフポンプ)冠状動脈バイパス手術のスペシャリストとして年間200例以上を執刀する、大崎病院東京ハートセンター長の南淵明宏先生が語ってくれた現実とは……。

 

代々木トシ子さん(92)が心臓に異常を覚えたのは87歳のとき。地元、福岡県大牟田市の病院で診てもらったが、高齢を理由に「体が手術にはとても耐えられないから」と投薬以上の治療は施されずにいた。

 

「5月に具合が悪くなって入院してから、何度か入退院を繰り返しました。10月に入院したとき、このまま病院のベッドで死を待つだけなんて……と思っていたのですが、病院の先生が急にTAVI(足の大動脈からカテーテルで人工の大動脈弁を植え込む手術)という手術をしようと言いだしました。胸を開かなくてもできるので体への負担が少ないと」(代々木さんの長女・美智子さん)

 

TAVIは比較的新しい術法だという。医療事務の経験もあり、医学知識もある美智子さんは「母が実験台にされるのではないか」と主治医に不信感を抱くようになる。

 

「そんなとき、以前テレビの医療番組で見た南淵先生のことを思い出しました。あの先生なら助けてくれるかもしれないと思い、電話で相談しました」

 

そして、大崎病院東京ハートセンターに転院すれば、手術で回復することを知った美智子さんは、母と妹に相談。やれるだけやってみようと意見が一致し、上京。2日後には無事手術を終え、酸素ボンベを外してもふつうに呼吸できるまでに回復した。

 

「心臓手術は命がけですが、だからこそ、年齢とかではなく、その人がどれだけ意欲があるか、元気になりたいという意志が強いかにかかっているところがあります。医者は自分の経験値でしか患者さんを診られないし、治療方法も立てられないものです。だから、どの医師も目の前の患者さんを助けたいと思っていても経験からブレーキをかけてしまったり、手術できないと決断してしまったりということがありがちです」(南淵先生)

 

だが、そんなときのために専門医がいるのだと南淵先生は話している。

 

「代々木さんには、4つ手術が必要でした。TAVIだけでは全てを改善することはできなかったのです。私のところには高齢な患者さんもたくさん来られます。年齢のほかに妨げになるのは再手術だからとか、持病があるからというケースですが、そんなことは問題になりません。たとえ、地元の医師に無理だと言われても、手術をあきらめないでほしい。医師のみなさんには、もっと専門医を頼ってほしいですね」(同)

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