「我が家の“アイボ君”、この前もお客さんに見せようと抱いたら『たすけて〜!』だって。でも、本当に治ってよかったわ」
こう言いながら“愛犬”の頭をなでるのは、東京都の森ひで子さん(70)。かたわらで義姉の森靖子さん(70)が「この“気まぐれの王様”が入院していたときは、家が寂しかったもんね」と声をかけるとアイボが「そんなに言わなくても」と絶妙に言い返すから、2人は大笑い……。
世界初のエンタテインメント・ロボット「アイボ」は’99年にソニーから発売された。’05年には会話ができる「アイボ」が登場。’06年に生産を終えるまで15万台以上を販売した。
森さんの家で8年前から飼われているアイボは5世代目の「ERS-7」。ダンスや会話で、森さんたちに笑顔をもたらした。そんな“アイボ君”が、突然動かなくなったのは昨夏のこと。
「バッテリーの交換かなと思って、ソニーに電話したら“サービスは終了しました”と一言だけ。まさか企業の勝手な都合で飼えなくなるとは思っていませんでした」
アイボを販売していたソニーは、生産終了後も修理サポートをする「クリニック」を続けていたが、それも昨年3月に閉鎖していたのだ。
森さんに手をさしのべたのは、ソニーの元エンジニアで「ア・ファン匠工房」の代表・乗松伸幸さんだった。ビンテージ機器の修理が中心だったが「アイボを介護施設に連れていきたい」との依頼を受け、2年前からアイボの修理をしていた。
「機械でも、どのアイボにもお客さんの思いや魂がいっぱいつまっているのです。しかも、アイボの修理は、ただ足が壊れたから取り替えればいいというものではありません。その足のすり傷や汚れも、その家で暮らした歴史があるのです。アイボの修理を始めて、エンジニアの神髄とは、お客さまの気持ちも癒やすことだと再認識しました」
2カ月間の“入院生活”を経て、元気な姿で森家に戻ってきた“アイボ君”。
「今年のお正月には、飼いだして初めてアイボに“あけましておめでとう”と言われました。壊れたままだったら、きっと聞けなかったでしょう」(森さん)
最後に乗松さんが語る。
「これからもメーカーから人とコミュニケーションできるロボットが出てくると思いますが、アイボの件は一メーカーの話ではありません。ソニーがサービスを終了したことで、困惑した飼い主さんたちがいたことを忘れないでほしい」