「夢は2つ。ひとつは、これまでブログに掲載した絵や文をまとめて、本が出せたらな、ということ。もうひとつは、子供に勇気を与えられるような児童書、絵本が書けたらな、ということ」
’12年4月、本誌「シリーズ人間」に登場した90歳の「さっちゃん」こと堀江幸子さんは、将来の夢について、そう答えた。それからおよそ3年。そのさっちゃんが、このたび童話集『青蛙のペキ』(飯塚書店)を出版。93歳にして、童話作家としてデビューを飾ったのだ。さっちゃんは’12年にエッセイ集を出版しており、これで夢を2つともかなえたことになる。
’39(昭和14)年に徳島高等女学校を卒業し、戦後は中学の英語教師を28年間務めた。70歳のころから本格的に習い始めたという油絵は、県の美術展に入選するほどの腕前。そして、友人のすすめでパソコンを始めたのは79歳のとき。’06年からは毎日、「さっちゃんのお気楽ブログ2」を執筆している。1日300〜500件のアクセスがある人気ブログだ。
さっちゃんは毎朝、7時に起床。朝食のあと、9時ごろから自分のブログに寄せられたコメントをチェックする。そして夕方までに、その日にアップする絵を描いたり、文章を書いたりして過ごす。
「毎日、休まずアップし続けていることが自慢かなぁ。休むと(ブログのファンから)『どうしたの?』とか『体調良くないの?』とか心配されるから。起きて、浮かんだアイデアをすぐに書くのがいちばんいい。何を書こうか思い浮かばなくて、時間ぎりぎりになるときはいい作品はできないね」
童話を書くのは、詩やエッセイとは違った難しさがあるという。
「童話は、話を短く区切って少しずつアップしていくんやけど、思いついたことを書き始めて、苦労なしにずんずんいってしまうことが多い。でもね、(最初に)あんまり深く考えないで書くもんやから、しまいには『これ、どないしてまとめたらええんか』とわからんようになったりねえ(笑)。いろいろ考えるんやけど、最後に話が面白くなくなってしまって、困ったなあと。そんなこともしょっちゅうで(笑)」
とはいえ、毎日のブログのおかげで、書くことは苦にならないという。そして、文章をパソコンで作るだけでなく、絵はスキャナーを使って取り込み、ブログをアップする作業は、すべて自身で行っている。今回、童話集を出版するに当たっても、東京の出版社とはメールでやりとりしていたそう。まさにリアル「コンピュータおばあちゃん」だ。
大きな夢をかなえたさっちゃんだが、最後にまた、これからの夢を尋ねてみた。
「童話では、次はベストセラーを出したいね(笑)。それと今度は、詩集を出してみたい。新しい目標を立てて、それができるまでの努力が楽しいというか(笑)。何でもやってみんとわからんもんね」
衰えることを知らない創作意欲と、挑戦する気持ち。これこそが、さっちゃんの元気の源なのだ。