2月1日、愛知県名古屋市で虐待防止NPOにより「養親希望者説明会」が催された。「養親」とは「養う親」のこと。説明会には「育ての親になりたい」「我が家に赤ちゃんを迎えたい」と願う数組のご夫婦が、熱心に耳を傾けていた。

 

そこに、特別養子縁組で赤ちゃんを迎えた体験者として、渡辺さん一家が紹介された。

 

「不妊治療にピリオドを打ち、我が家に来てくれる子との出会いを待ちました。そのころ、お子さんを迎えたばかりの幸せそうなご家族の姿を拝見したことがあります。私たちも授かることができるのかしらと、当時は別世界にように思えました。その幸せが私にも訪れるなんて、感無量です」

 

こう話したのは、お母さんの智美さん。約1年前に「赤ちゃん縁組」によって結ばれた渡辺さん夫妻と赤ちゃん。現在は、智美さんの実家の母親のサポートも得ながら、子育てに奮闘中だそう。ごくふつうの子育てが、ひときわまぶしい、幸せな家族の姿がそこにある。

 

渡辺さんの家族を結びつけたのが、「愛知方式」と呼ばれる赤ちゃんの養子縁組である。これは「特別養子縁組」という民法の制度に基づいており、事情があって生みの親が育てられない、生後から6歳未満の子どもを、養親の戸籍に「実子」として迎えて新しい家族を作り、養親が希望した子の名を多くの生母が出生届に記入している。

 

日本では、これまで主に民間のあっせん団体によって行われてきた特別養子縁組だが、愛知県(政令指定都市の名古屋市を除く)では、30年ほど前から、児童相談所の職員が率先して、特に新生児の特別養子縁組に取り組んできた。

 

この「愛知方式」を始めたのは、元児童相談所職員で社会福祉士の矢満田篤二(やまんたとくじ)さん(80)。冒頭の説明会主催者の1人でもある。

 

生みの親が育てられない生後間もない赤ちゃんを、そのまま乳児院へ入れるという慣例化したシステムに疑問を抱き、当時としては異例の赤ちゃん縁組を果敢に実践してきた。「前例のないことをするな!」という上司の叱咤をものともしない、自称“不良公務員”ぶりは、もはや伝説化しているとも聞く。

 

「民法にも、児童福祉法にも、児童相談所が赤ちゃん縁組をしてはいけないとは、どこにも書いてありませんからね。児童福祉司は子どものためになることなら、何をやってもいいのです。この制度は、家系存続などの理由で、子どもが欲しい大人のためにあるのではありません。親を必要とする子どものため、子どもの福祉のための制度です」

 

それゆえ「赤ちゃんの性別は選べない」「病気や障がいの有無で引き取りを左右しない」「審判成立前に生みの親が引き取りたいと申し出たら、つらくてもお返しする」といったいくつもの条件を受け入れた人でないと、赤ちゃんは託せない。

 

愛知方式は「三方よし」の方策だと矢満田さんは胸を張る。〈赤ちゃんは生後間もなくから安定した終生の親にめぐりあえる〉〈夫婦は赤ちゃんに恵まれて親になり、不妊治療の苦悩から脱却できる〉〈予期せぬ妊娠・出産をした女性が、赤ちゃんを育てられない自責の念から解放される〉という「三方」だ。

 

赤ちゃん縁組の親子が「命」に真摯に向き合う姿から、親子にとって、家族にとって大切なことが見えてくる。

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