もう来年には始まろうとしているマイナンバー制。だが、マイナンバー制といってもぴんとこない人がほとんどではないだろうか。今年の秋、あなたの元にも届く「マイナンバー」通知。これはいったい、どんな番号なのか?
「この法案が国会に提出されたのは’12年2月。まだ民主党政権下でした。当時、消えた年金記録が問題になり、社会保障への不安をなくすためには共通番号制度が必要との見地から、’13年5月、自民、民主両党の賛成で国会で成立。’16年度から実施されることになったのです。国民一人一人に12ケタの数字が配られ、納付や年金給付などの際には、この番号が必要となります」(富士通総研・主席研究員の榎並利博さん)
’68年、佐藤内閣時代に、世論の強い反発で見送られた国民総背番号制。’02年、導入時にさまざまな論議を呼んだ住民票コードなど、国民全員に共通番号を振ることには大きな抵抗があったはず。それが「消えた年金」問題を契機に、まさに国民の知らぬ間に法制化されてしまったかのように見える。
マイナンバー立法検討時から、政府の担当部署と話し合いを持ってきた弁護士の清水勉さん(日弁連情報問題対策委員会委員長)は「あまりに危険なIT時代の国民総背番号制」と不安を露わにする。そこで、清水さんにマイナンバー制に潜むリスクを教えてもらった。
【住民票のない人に番号は届かない】
「今年10月、すぐに直面するのが、番号が届かない人がいるという問題です。世帯単位でくるといいますが、いまは住民票では同じ世帯でも実際住んでいる場所は別という人が多い。今年中に国民全員に告知するのは無理です。またDV被害などで住民票を移さず逃げている人もいる。そうした弱者が無視される制度が果たしていいのか、スタート時から疑問です」
【なりすましなど不正利用される可能性がある】
「いまも名簿業者が存在するように人名リストには価値があります。マイナンバーは生涯不変。従来の名簿には同姓同名や同じ誕生日といったズレがありえたが、それがない分、さらに価値が高い。情報を持ち出して売る人間が本当に一人も出てこないのか。善人を前提とする制度設計はいかにもお役所的ですね。また、マイナンバーがクレジットカードや銀行のオンライン口座に使えるようになれば、当然、なりすまし犯罪も危惧されます」
【病歴が漏えいすることも起こりえる】
「健康保険のレセプト情報が紐付けされると、たとえば抗がん剤、抗うつ剤などの処方履歴(病歴)がマイナンバーから検索され、他人に把握されてしまうかもしれません」
【やがて国民総監視システムの構築が可能に】
「いまのITの進歩は想像できないほどに速い。たとえば町には無数の監視カメラがあります。顔認証システムとマイナンバーを紐付けすれば、番号を入力しただけでいつどこにいたか捜索できるようになるでしょう。スイカなどの交通ICカードデータもいっしょに紐付け、さらにクレジットカード利用履歴などをマイナンバーで寄せれば、特定の個人の全生活を丸裸にすることが可能になります」
こうした不安を抱えながらも、すでに年内にはスタートするマイナンバー制度。
「来年始まる税の分野だけならまだリスクは少ない。プライバシー漏えいが本当に危惧されるのは、番号が健康保険や銀行口座に利用されるかどうか。慎重に見守っていかないといけません」(清水さん)