「今年1月から相続税が改正になり、課税対象者が増えています。『うちには相続財産なんてない』という方も多いと思いますが、相続でのトラブルは、資産家より一般家庭のほうがはるかに多いのです」

 

こう語るのは、経済ジャーナリストの荻原博子さん。司法統計によると、相続に関する裁判・調停の成立件数は、遺産5千万円以下が約75%を占め、そのうち1千万円以下が約32%。特に「財産は自宅だけ」という人が危険なのだ。荻原さんにその事例と注意点を教えてもらった。

 

〈1〉独身のAさんと独立した弟

Aさんは実家に住み、父を介護して最期をみとった。財産は父名義の自宅だけで母はすでに他界。Aさんは「私は父を介護した。今後もこの家に住みたい」と思い、弟は「自分は苦労して家を建てたが、姉は悠々と実家暮らし。遺産の半分はもらいたい」と思っている。

「相続人が子どもだけの場合、遺産はきょうだいで等分するのが原則です。自宅を売却すれば可能ですが、住む人がいると分けられません。Aさんと弟との論争は平行線で、調停に持ち込まれました」

 

〈2〉他人の口出しで…

一般的に親を送る時期は、子ども世代のお金がかかる時期と重なる。昨今の不景気もあって、きょうだいの妻や夫などが「1円でも多く」と口を出し、論争が激化。「争続」に発展するケースも。

 

〈3〉遺言書があっても…

高齢のBさんは、遺言書を作った。献身的な介護に感謝して、長男の嫁に全財産を残すと記した。次男はこれに納得できず、遺留分を求めて調停を起こした。

「遺留分とは、遺言書の内容に反しても、相続人が最低限相続できる財産を指します。親子間の相続では、法定相続分の2分の1を、遺留分として請求できます。次男は遺留分を請求しました。遺言書があってももめることがあるのです」

 

〈4〉先妻との子どもも相続人

Cさんには、先妻との間に子どもがいた。長年、音信不通だったが、葬儀後に現れ遺産を要求した。先妻の子どもも相続人だ。連絡を取り、相続について話し合わねばならない。

 

〈5〉高齢者が再婚すると…

最近は、高齢者の再婚も増えている。再婚相手は配偶者なので、財産の2分の1を相続する権利を持つ。数年暮らしただけでと、納得できないこともあるだろう。

 

「争続」を避けるための対策には、どんなものが挙げられるのだろうか。

 

「まず、生命保険の活用があります。不動産など現金化しづらい財産しかない場合に、死亡保険という現金が手に入れば、もめずに済む方法も考えられるでしょう。生命保険は相続人1人当り500万円の相続税控除があります。次は、やはり遺言書が大切です。〈3〉のような事態に陥らないように専門家を交え、親子で話し合って、遺言内容を決めるといいでしょう」

 

さらに、高齢者の再婚は結婚届を出す前に、親子と再婚相手がそろって、相続の取り決めを交わしておきたい。

 

「『うちは関係ない』と思わず、元気なうちに自分の財産を把握しましょう。そのうえで、

お金を残すより、じょうずに使うことをお勧めします」

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