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高視聴率が続くドラマ『下町ロケット』(日曜夜9時〜TBS系)。町工場の社長を演じる阿部寛を筆頭に、宇宙ロケットという大きな夢に向かう熱い男たちの姿に女性ファンがくぎ付けだ。そんな男たちの“闘い”が繰り広げられるいっぽう、ドラマでは“頼れる女性”も描かれている。それはドラマを離れた現実の世界での町工場でも同じこと。

 

「私が社長で、妻が黒幕(笑)。それは社内外での共通した認識なんですよ」とユーモアを交えて語るのは、小さな町工場が集まるモノづくりの聖地・東京都大田区にある、タシロイーエルの社長・田代信雄さん(58)。すぐさま、専務で妻の万起子さん(57)が「何それ〜。人聞きが悪い」とツッコミを入れるが、夫はかまわず続ける。

 

「いやあ、どんな窮地に立たされたときも、心の支えになってくれたから、ここまでこられたんです。今でも大事な経営判断をするときはじっくり話し合います」

 

15年ほど前から宇宙関連の仕事を始め、最近では昨年2月に打ち上げられた「H2Aロケット」の切り離し部分の部品を、十数種類も手がけている。社員12人の町工場が、宇宙に羽ばたくまでには、ドラマ同様多くの危機があった。2人が結婚したのは’87年。結婚当時、万起子さんは大手ビール会社の宣伝部でOL生活を送っていた。

 

「ある日、夫が職人になって父親の後を継ぐと言いだしたんですね。でも、義父(栄一・87)が自宅で一人、金属部品を加工する職人をしていたのに、夫はまったく職人の経験がありません。それなのに、借金して1千万円くらいする機械まで買って(笑)。社員は義父と夫の2人とはいえ、事務や経理も必要だと、私も手伝うことにしたんです」(万起子さん)

 

信雄さんも、父の栄一さんも真面目な性格だ。ぜいたくはできないまでも、順調に仕事を増やし、一時期はホンダのF1エンジンの部品も手がけた。だが、間もなくバブルが崩壊。不景気の波が工場を襲う。

 

「今年24歳になる長女が生まれたばかりで年子の長男がおなかにいるときでした。工場の売り上げが5分の1に激減。家族会議を開いて『もう、やっていけないね』『工場をたたもう』という話も出ました。でも、勤めに出て十数万円の収入を得るくらいなら、苦労しても自分たちの工場を守りたい」(万起子さん)

 

2人は同居していた義父母に頭を下げ、自宅兼工場を売却。一家は、同じ大田区内の賃貸の工場で再起をはかった。夫婦は工場をもり立て、職人も少しずつ増えていった。そして、15年ほど前、初めてロケットの部品の製造以来が舞い込んだ。

 

「ロケットの部品は手間ひまがかかるうえに、厳しい製品チェックがあります。収益性だけを考えたら、採算性が高いとは言えません。でも、うちでは新人の職人にもチャレンジさせます。失敗すれば材料費が無駄になるけど、自分が手がけた部品が宇宙に飛び立つのは自信になるし仕事に誇りを持てます」(信雄さん)

 

バブル崩壊時に万起子さんのおなかにいた長女は大学卒業後に職人として、義父の栄一さんも現役に職人として一緒に働いている。そんな、職人たちの熱い思いを万起子さんはしっかりと受け止めている。

 

「はじめてうちが関わったロケットの打ち上げ映像は、事務室のパソコンで職人みんなで見ました。正直、私は宇宙のことはわかりませんし、部品を自分で作っているわけでもありません。でも、無事にロケットが打ち上がった瞬間は、もううれしくて“よかった、よかった”とみんなで大喜びしました」