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「『小さいおうち』を執筆する前までは、第二次世界大戦中の日本のことを“別世界であり別人が生きている世界”と思っていました。でもいま、日本国憲法と政治を取り巻く環境の中では、“当時の人といまを生きる人のメンタリティは同じ”だと思わざるをえないのです……」

 

こう語るのは、太平洋戦争下の日本の一家族を扱った小説『小さいおうち』(文藝春秋)で’10年に直木賞を受賞した作家の中島京子さん。参議院選挙の公示を控え、各党は、選挙対策に躍起だ。しかも、自民党の安倍晋三首相(61)は、「選挙後の日本国憲法の改正」を公言してはばからない。

 

「安倍首相と自民党は、議員の『3分の2』の賛成で何でも動かせると思っている。私たち国民は、それをさせてはいけないと思うんです」(中島さん・以下同)

 

中島さんの言う「3分の2」とは、「憲法改正を発議できる」衆参両院の議席の割合のこと。

 

「議論するにしても、土台を整えるために、国民みんなの理解を引き上げたうえでしていかないと、すべてがなし崩しでいかれてしまうという恐れが、私にはあるんです」

 

自民党の改憲案には、一見すると「戦争をする国家」ではないと思える書き方が全般を通して見られるという。中島さんは、それが「世論誘導の恐ろしいところ」として、核心を指摘する。

 

「スバリ、9条に関わる部分です。現行の日本国憲法はまずタイトルで『戦争の放棄』と掲げたうえで、《日本国民は〜》とうたっていますよね。これが自民党の改憲案では、『目に見えない改ざん』がなされています。まず、『戦争の放棄』と決意表明されていた主題を、ぜんぶ削って『安全保障』に変えています。’15年にあった『集団的自衛権の行使容認』の議論と同じ理屈です。戦争に限りなく参加できる権利を、政治家たちは『安保』という一見、争いと逆の言葉にすり替えて提示してくるんです」

 

その9条は「安全保障」というタイトルの後に、ごていねいに「平和主義」と書かれ、現行憲法の戦争を「永久に放棄する」という動詞を、なぜか「手段としては用いない」と婉曲している。

 

さらに現行憲法は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と、自衛隊は軍隊ではないのだと明言しているのに対して、改正案ではこの項目自体を削除し、「戦争放棄」の規定が「自衛権を妨げるものではない」とまで書き換えられているのだ。

 

「’14年末にあった衆議院選挙で、自民党はマニフェストに『憲法改正をうたった』と言いましたが、ほとんどがアベノミクスという言葉に踊らされた経済政策ばかりで、『憲法改正』に関する条項は目立たずに載せていただけだったんです。その末に大勝した。今回の選挙でも、消費税の引き上げ中止を『新しい判断』などという新語を持ち出して声高に喧伝し、注目をそらしている感じがする。それにだまされてはいけないんです」

 

中島さんが言うのは、私たち国民が日々の家計のやりくりに気を取られるなかで、「消費税据え置き」という甘いささやきに惑わされると、知らず知らずのうちに「日本が戦争できる国になっている」という現実への警鐘なのである。

 

「この改憲草案がまさにそうなんですが、一見何を言っているのか、わかりにくいものばかりです。そこに、私たち国民が『無知』や『無関心』を決め込んでしまってはいけないんです。少なくとも、現行の日本国憲法と、危ない自民党改憲案とを読み比べて、違いだけでも認識できれば、私たちの平穏な日々は守られると思うんですが……。いまの日本には、太平洋戦争の一歩前にあった“無関心と無知”の空気感が漂っているような気がしてならないんです」

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