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「孫たちは、戦争するために自衛隊員になったんじゃない。公務員になるといって、家計を支えるために入ったんだ」

 

そう話すのは、青森市在住の篠原ミチさん(仮名・78歳)。篠原さんの孫ふたりは、自衛隊員。兄は6年前に入隊。妹は、兄の姿に憧れて高卒後3年前に入隊した。

 

「下の孫は、女の子だけど射撃がうまくてね。表彰されてメダルをもらったりしてるんだと。あの子は5連隊だし、射撃がうまい人から南スーダンに連れていかれるっていうから心配で……」

 

政府は10月、東アフリカの南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)を継続すると決定した。“駆け付け警護”という新任務を付与し、青森の陸自第9師団第5普通科連隊を中心に各地の舞台で編成された、約350人を、11月20日から順に派遣。

 

“駆けつけ警護”とは、PKO活動をしているNGO職員などが暴徒に取り囲まれたとき、自衛隊が現地の治安当局などよりも現場近くにいたら応急的に警護すること。戦後初めて武力行使をする任務を負って、海外に自衛隊が派遣されるので、戦闘に巻き込まれる可能性が高くなる

 

日本では、憲法9条によって集団的自衛権が認められていなかったので、これまでPKOに派遣された隊員は、自分を守る場合のみしか武器使用ができなかった。しかし、今回の派遣からは、他国の人を防護するときにも認められることに。前出の篠原さんも戦争経験者。戦争の恐ろしさは身に染みている。

 

「青森空襲で町が燃えるの見ていたし、兵隊が馬に乗って出征していくのを何人も見送った。けど、ほとんど帰ってこなかったんだ。孫たちを、そんな目に合わせたくない」

 

孫たちは、たまに顔を見せに来るが、南スーダン行きについては、いっさい話さない。

 

「今年のお盆も帰ってきてくれてな。でも、これで会うのが最後になるんじゃないかと思って悲しかったべな」

 

息子が甲信越地方の駐屯地の陸自に所属する金山明子さん(仮名・52歳)も、つらい心情を吐露する。

 

「息子は災害救助で活躍する自衛隊に憧れて、震災の翌年に入隊したんです。自分は体力があるから、それを活かして人の役に立ちたいって」

 

普段は親と一緒に写真に写るのを嫌がる息子が、自衛隊の入隊式のときは、誇らしげな顔で敬礼をして、両親と記念撮影した姿を忘れられない。

 

「間違って人を殺してしまう可能性もあるんですよね。息子もいつ派遣されるかわからないし、自衛隊に入るのを止めればよかったと思います」

 

北海道在住の平和子さん(仮名・55歳)は、最近、公の場で自衛隊の駆け付け警護などに、反対する発言をするようになった。「自分が発言することで、息子に迷惑がかかってはいけない」と息子に絶縁状を送り、交流を断った。

 

そうまでして「反対」の声を上げようと思ったのは、息子が所属する北海道・千歳駐屯地の隊員が、10月まで南スーダンに派遣されており、他人事ではないと思ったからだ。

 

「駆け付け警護の任務が付与される前でしたし、息子は派遣されずにすみましたが、いずれ順番がまわってきます」

実際に、自衛隊が派遣される南スーダンは危険に満ちている。首都ジュバでは今年7月、政府軍と反政府軍の大規模な武力衝突が発生。一般市民を含む300人以上が死亡。外国人が多数宿泊していたホテルを政府軍の兵士が襲撃し、NGO関係の女性がレイプされる事件も起こっている。

 

「そんなところで“駆けつけ警護”すると政府軍と一戦を交える可能性があります。南スーダン政府軍は、外国の介入を嫌って、PKOに反感を持っているからです。なのに日本政府は丸腰で自衛隊を“戦場”に送ろうとしている。隊員の命を軽く見ているとしか思えません」

 

語るのは元陸上自衛隊レンジャー隊員で、自衛隊の海外派遣について講演活動をしている井筒高雄氏。派遣される自衛隊員の装備や待遇はお粗末だとして井筒氏はこう語る。

 

「敵はフルスペックの装備でも、自衛隊は小銃程度しか持たされません。フル装備で行くと、危険な地域だと認めることになるので、政府はそんなことさせたくないんです」

 

医療体制も貧弱だ。

 

「米軍などは、現場で止血や簡単な手術ができるよう何十点もの救急道具を持参していますが、自衛隊は包帯や止血帯など簡易的な救急袋を携帯するのみ。米軍の軍用犬の装備以下です。狙撃されて太ももでも貫通したら効果的な止血はもとより、負傷した隊員に痛み止めの注射すら打てず、衛生兵がいる場所まで運んでいるうちに、失血死してしまう危険性が高い」(井筒氏)

 

自衛隊がPKOに参加する場合に守らなければならない「PKO5原則」もすでに崩壊している。

 

しかし安倍首相は国会で、「ジュバで起こっているのは“戦闘行為”ではない。戦闘をどう定義づけるかは国会などでも定義がない。我々は“衝突”という表現を使っている」と、無責任な答弁を展開。

 

南スーダンと日本を頻繁に行き来して支援活動を続けている、国際ボランティアセンターの今井高樹さんは、「“戦闘”か“衝突”かと議論すること自体、現実を見ていない証拠」と反論する。

 

「私たちが食料支援をしている人の中には、村に突然戦車が乗り込んできて、奥さんと子供を殺されてしまったという男性がいます。やったのは政府軍が反政府軍かわかりません。それが現実なんです」

 

前出の金山さんは言う。

 

「自衛隊員の親として法律や国際情勢に無知だった自分が悔やまれます。政府も国民や自衛隊員にきちんと現実を語ってほしい。現実を知ったうえで、武器には武器ではなく、日本なりの支援の仕方を考えればいいのでは」

 

国民的議論も尽くされていない段階で、なし崩し的に命が危険にさらされるようなことがあってはならない。

 

 

南スーダン等を支援している国際協力NGO「日本国際ボランティアセンター」の詳細はこちら。寄付の受付も行なっています。

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