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先月中旬、茨城県にある動物愛護のNPO法人「しっぽのなかま」のシェルターを訪れたのは、放送作家の藤村晃子さん(43)。今月9日に神奈川県横浜市にオープンする保護猫カフェに保護するための猫をこの日、藤村さんは引き取りに来ていた。

 

藤村さんが本誌に登場するのは、今回が初めてではない。本誌は昨年6月、「シリーズ人間」で藤村さんを紹介している。

 

’15年8月に生まれた藤村さんの長男・夏海くんは「18トリソミー」という染色体異常による難病を抱えていた。医師から「1歳の誕生日を迎えられる可能性は10%」という非情な宣告を受けての育児だった。それでも1年前、本誌の取材を受けた藤村さんは「いまがいちばん幸せです」と笑顔で話していた。

 

ところが、昨年7月5日。入院中だった夏海ちゃんの容体が急変。駆けつけた藤村さんの目の前で息を引き取った。18トリソミーの子どもに比較的多いとされる突然死だった。悲しみが癒えなかった藤村さん。だが、知り合いの僧侶がかけた、「お母さんが、自分の夢に向かって懸命に生きる姿こそ、息子さんにとっていちばんの供養になるんですよ」という言葉が転機なった。前を向くことを決めた藤村さん。愛する息子の死から3カ月がたっていた。

 

昨年12月。保護猫カフェの開業資金の一部をインターネットのクラウドファンディングで募ったところ、多くの資金が藤村さんのもとに寄せられた。そのなかには以前から親交のある芸能人や著名人も。

 

「寄付してくださるだけじゃなく、なかには、ご自分のSNSでファンの方々に広く拡散してくれた方もいました。また、なっちゃん(夏海ちゃん)のことも知ったうえで『ずっと応援してました。亡くなった息子さんのためにも、必ず成功させて』って手を差し伸べてくださった方もいました」(藤村さん・以下同)

 

こうして今月9日、「保護猫の家*ARIGATO」はオープンする。猫たちは、日本動物虐待防止協会が、個人ボランティアや動物愛護団体から譲り受けたもの。基本的にはカフェのすべての猫が、希望者へ譲渡可能だ。

 

「譲渡希望の方には面接をさせていただいて、そのうえで1週間ほどのトライアル期間を設けさせていただきます。ちゃんと責任を持って終生、大事に飼っていただけると判断した方に、お譲りしたいと思います」

 

通常、猫カフェは猫と触れ合うための空間に重点をおいているため、カフェ部分は手狭になるところも少なくない。だが、藤村さんの運営する「保護猫の家*ARIGATO」は、カフェスペースがかなり広く設計されている。

 

「そうなんです。ただ、猫と遊ぶためだけじゃなくて、猫のこと、動物愛護のことを学べる場所にしていきたいと思ってるんです。愛護動物虐待防止管理士の講習会も開きたいと思っています」

 

ゆくゆくは、藤村さんと親交があり、かつ動物愛護に関心の高い芸能人の講演会なども開きたいという。

 

「何よりやりたいと思っているのが、地域の小学生たちを招いての勉強会なんです」

 

動物虐待が、DVや凶悪犯罪の前触れになることが多いと通説になっている欧米では、幼少時から動物愛護や動物福祉を学ぶ機会がたくさんある、と藤村さん。

 

「でも、日本の学校では、動物虐待や殺処分について学ぶ機会は、残念ながらほぼゼロです。大人でも、動物福祉や動物愛護法を知らない人がほとんど。犬や猫の殺処分をなくし、さらには人間への暴力もなくす一助になると思います」

 

小さな子どもたちと接することで、夏海ちゃんを思い出してつらくなったりはしないのだろうか。

 

「たしかに町でベビーカーを押すママを見ると羨ましかったり、いま、なっちゃんが生きてたらって考えちゃうこともある。でも、たとえ短くても、なっちゃんと過ごした時間のなかで得たものを大事にしたかった。障害のある子に対して、社会にはまだまだ偏見を持っている人がいます。軽々しく動物を捨てる人もいます。だから、子どもたちに、小さな命、か弱い命に優しい人になってほしいと心から思っているんです。それがいつか、なっちゃんのような子に対する偏見を社会からなくすことにもつながると、私は信じているんです」

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