加熱する各自治体間の返礼品合戦に、総務省が「待った!」をかけたのも記憶に新しいふるさと納税。その一方で、ふるさと納税を“町おこし”の絶好の機会と捉え、熱い思いで取り組む“役場の星”たちがいる−−。
「正直、“安定”が公務員を選んだ理由のひとつでした。でも、ふるさと納税を担当するようになり、仕事に対する意識が大きく変わりました」
そう語るのは、愛知県碧南市の伊藤桃子さん(24)。名古屋から40キロ圏内にある港町・碧南市。役所に勤めて3年になる伊藤さんは、入庁後、ふるさと納税を担当する課に配属になったという。
「本当は子育て関連の仕事をしたかったので、ふるさと納税について、まったく知識がありませんでした。でも担当してからすぐに、“あしながおじさん”のような存在が現れたんです」(伊藤さん)
碧南市の返礼品には、寄付金100万円以上で「へきなん満喫スペシャル」という市内の遊園地を貸し切りできるプランがある。ある男性が寄付をして得た遊園地を貸し切りできる権利を使い、児童養護施設の子どもたちを招いたのだ。
「本来は社員旅行などに使ってもらうプランですが、こんな利用法があるんだと驚きました。しかも、善意の連鎖が続き、翌年以降もほかの方から寄付をいただいて、3回も児童養護施設の子どもたちを招待できたのです。遊園地で笑顔を見せる80人ほどの子どもたちを見て、自分だけでなく、多くの人を巻き込むことができる、ふるさと納税に魅力を感じました」(伊藤さん)
現在は、市内の生産者や企業を回って返礼品の収集に力を注いでいる伊藤さん。毎日が驚きの連続だという。
「私は碧南市の隣の市の出身で、碧南に日本最古のみりんの醸造元があるなんて知りませんでした。しかも地元の人は、このみりんを調味料としてだけでなく、バニラアイスにかけたりして楽しんでいます。そんな素晴らしい特産品を若さと女性の感覚でどんどん見つけていきたいです」(伊藤さん)
ふるさと納税を新しい“販売ルート”にして、町の活性化を成功させたのが、人口1万4,000人ほどの鹿児島県大崎町。全国的に注目されるようになったのは、’14年度に約1,000万円だった寄付金が、1年間で約27億円になったことから。それを成し遂げたのが市の職員である竹原静史さん(41)だ。
「税収が一気に増えたことで、私の給料も上がっただろうといわれますが、5,000円だけ(笑)。それより町に元気が出てきたことがうれしい」(竹原さん)
高齢化による福祉医療費の増大、公共施設建設による借金の返済などで財政難だった町を救った方法とは−−。
「返礼品には審査基準が厳しいイメージがありますが、大崎町はハードルが低い。それは地元の事業者に、ふるさと納税を販路拡大のツールとして使ってもらいたかったから。通常、生産者と消費者の間には中間業者が入りますが、ふるさと納税はいわば“直販”。ダイレクトにつながることができます。お客さんの厳しい意見や喜びの声を聞く機会がなかった生産者にとって、重要な機会でもある。生産意欲を高めたり、責任感が生まれ、生産者の育成にもつながるのです」(竹原さん)
税収が増えただけでなく、さまざまな相乗効果が町に表れているという。
「多くの寄付を集める町ということで、県外から視察ツアーが組まれ、それをサポートするボランティアも立ち上がっています。地元の女性たちは返礼品をつくる食品加工グループを結成し、食堂までオープンしました。閉塞感が漂っていた町民たちが『何かしてみよう』と動きだした効果が、着実に出ているのです」(竹原さん)