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39歳でがんのため亡くなった息子の死から8年、息子が借りた奨学金の一括返還を求める督促状が、保証人だった父親に突然届いた。死後にも延滞金が加算され、請求総額は265万円に――。

 

奨学金が返済できず、「自己破産」する人が過去5年間で延べ1万5,000人にのぼったと、2月12日「朝日新聞」が報道した。破産した人のうち半数は、保証人の親や親族だった。

 

「学生の2人に1人が利用しているといわれる『日本学生支援機構』の奨学金は、大部分が『貸与型』。つまり返済が長期にわたる“借金”です。また住宅ローンなどと違い、返済能力がわからないときに借りるため、返済不可能となるリスクがとても高いんです」

 

そう語るのは、’13年「奨学金問題対策全国会議」を設立し、著書に『「奨学金」地獄』がある岩重佳治弁護士だ。

 

「『借りたら返すのが当然』という声もありますが、この問題は個人の力で解決できるものではありません。『学費の高騰』『親の収入の減少』『雇用崩壊』といった、社会的要因が引き起こしているのです」(岩重さん・以下同)

 

文部科学省のデータによると、約40年前と比較して国立大学の初年度費用はおよそ73万円、私大は85万円も高騰している。いっぽうで、親からの仕送りは減少しているという。

 

「’00年から’12年の間で仕送りの額は、年間30万円ほど下がっています。仕送りのない学生は、何らかの奨学金を利用しないと暮らせません。学費を払うためバイトに明け暮れて体を壊す人、風俗で働く女性もいます」

 

なんとか大学を卒業しても、もし奨学金を最大月に12万円を4年間借りていた場合、金利を上限の年3%とすると、負債総額は883万円に。巨大な負債を抱えて、社会に出ることになるのだ。

 

「正社員になっても、過酷な労働環境や低賃金で不安定な仕事につくしかない人も多い。返済を延滞する人たちの8割が年収300万円以下。それで毎月数万円の返済を迫られるのはたいへんきついんです」

 

さらに追い打ちをかけるのが、日本学生支援機構からの厳しい“取り立て”。もし返済の延滞が4カ月になると債権回収業者による回収が始まり、9カ月を超えると、督促という裁判所からの法的手続きに入る。

 

「本人が返せないなら、冒頭の例のように連帯保証人へ取り立ては続きます。支払いができない人が自己破産をしようとしても、保証人へ請求がいってしまうことをおそれて、無理な支払いを続けるケースが後を絶ちません」

 

のしかかり続ける“返済”の重荷。こうした事態を避ける方法はあるのだろうか。岩重さんはこう語る。

 

「『自己破産』も人間らしい暮らしを続けるためのひとつの手段です。ただ奨学金を利用する際は、返済の必要がない『給付型奨学金』と、『機関保証』の検討が大事です。自治体や志望校、民間企業が取り組む『給付型』は、『成績優秀者』『指定校のみ』など条件が厳しいものが多く“狭き門”というのが現状ですが、自分に合うものがないか探してみてください」

 

給付制度の多くは月2万~3万円と、食費程度の給付額だが、助けになることは事実。なかには、「朝日奨学会」による「4年で最大520万円給付」など、大きな額を補助してもらえるものもある。経済状況によっては「給付型」と「貸与型」を併用する必要がある人も多いだろう。

 

「『貸与型』の奨学金を申し込むときは、連帯保証人と4親等以内の親族の保証人を立てる『人的保証』と、返済できない場合、保証会社に肩代わりしてもらう『機関保証』のどちらかを選びます。その際、親や親戚が保証人になる『人的保証』を選ぶのは避け、『機関保証』を選んでほしい。それは、家族や親族まで共倒れしてしまうことを防ぐためです。甥や姪、また子どもの結婚相手になる人が返済に困っているかもしれない。その人たちが『人的保証』を選んでいた場合、取り立てが自分のところまでやってくる可能性はゼロではないんです」

 

また救済措置のひとつとして、地元に“Uターン就職”した人に対し「奨学金返還助成制度」をもうける地方自治体もある。「Uターン」だけにとどまらず、出身県ではない地方への移住者も対象の場合があるので、各自治体の取り組みを調べるのも有効だ。

 

「奨学金を借りる場合には、子どもとよく話し合い、総額いくらになるか、卒業後、毎月の返済がいくらで何年続くのか、きちんとリスクも話し合ってほしいと思います」

 

これらの救済制度は、まだまだ認知度が低いと岩松さんは語る。「給付型」の拡充も含め、既存の制度を見直していかなければ、“奨学金地獄”の根本的な解決は遠いようだ。

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