「春は、新しい生活が始まり、保険の加入を検討する方も多いと思います。最近は、自分が亡くなった後に払われる『死亡保障』より、生きている間の入院や手術などへの保障を充実させる傾向があります。そのため『医療保険』が注目を集め、一風変わった特徴的な商品も登場しています。そのなかに“払い込んだ保険料が全額戻ってくる”という医療保険があります」
こう語るのは、経済ジャーナリストの荻原博子さん。そもそも医療保険は、大きく分けて2種類ある。1つは「掛け捨て保険」で、最近の主流だ。病気などにならなければ、保険金は一切出ないが、その分、保険料は安く抑えられている。もう1つは「貯蓄性保険」。病気などによる保険金受給がなかった人に、多少の満期保険金や解約返戻金が出る。保険料は、掛け捨て保険より高めだ。
「前述の『保険料が全額戻る保険』は貯蓄性保険に分類されますが、戻ってくる額が違います。保険金受給のない方には、それまでに払った保険料の100%が、『健康還付給付金』として支給されるとうたっているのです。ただし契約開始から少なくとも20年後、あらかじめ設定した年齢に生きていることが条件です。病気などで保険金を受け取った方も、設定した年齢に存命なら、払った保険料総額からもらった保険金を引いた差額が、健康還付給付金になります。受給額を合わせると、払った保険料と同額になるので“全額戻る”と宣伝されているのです」
そこで、“払い込んだ保険料が全額戻ってくる”と宣伝されている、東京海上日動あんしん生命の「メディカルkitR」を例に、荻原さんが3ステップで検証。
【1】払う保険料総額と、受け取る保険金を計算する
月々の保険料は、ホームページでシミュレーションできる。たとえば50歳女性で入院日額5,000円なら、保険料は月4,874円となった。
「50歳で加入し、健康還付給付金を受け取る70歳まで20年間の保険料総額を計算してみましょう。4,874円×12ヵ月×20年間=116万9,760円です。また、受け取る健康還付給付金も、シミュレーションに記載されています。このケースでは、114万2,400円という結果でした。払った保険料全額が戻るというのに、計算が合いません」(荻原さん・以下同)
荻原さんが電話で問い合わせると、健康還付給付金は主契約である入院保障や手術保障の保険料が対象だとのこと。
「つまりシミュレーションには、先進医療特約が含まれていて、その保険料、月114円の20年分、2万7,360円が誤差になっていたのです。自分で計算したことで総額の違いに気付き、そこから特約保険料は戻らないことがわかりました。これらは小さな文字で説明されているので、見落としがちな情報です」
【2】さまざまなケースを考える
70歳までに亡くなったら、どうなるのか。
「問い合わせてみると、『健康還付給付金を受け取る前に亡くなった方には、解約返戻金を支払う』と言います。多くの医療保険に付帯される『死亡保障』がなく、確実に損になる解約返戻金しか受け取れないことがわかりました。このように宣伝されていない部分に、素朴な質問を投げかけてみると、デメリットが明るみに出ることもあります」
【3】ほかの保険や手段と比較検討する
一般的な医療保険なら、保障額などの条件を合わせて他社と比較する。だが、この保険は貯蓄性がセールスポイントなので預貯金と比較。
「問題は、健康還付給付金の受給まで、20年かかることです。長期間ですから、リストラなど病気以外の不測の事態で、お金が必要になることがあるかもしれません。その際、保険を中途解約すると損をするのは、皆さんご存じのとおりです。預貯金は今、超低金利でほとんど増えませんが、途中でやめても元本が減ることはありません」
また、インフレで金利が上がっても、預貯金なら預け替えが簡単だが、保険はそのまま保有するしかない。
「この3ステップは簡単で、どんな保険でも使えます。まずは自分で計算することから、実践してみてください」