「目をつぶって想像してみてください。東京から人っ子一人いなくなった光景を――。福島原発の事故のとき、最悪のシナリオで東京を中心に5千万人の避難が必要でした。国の研究機関も、30年間で70%近い確率で起こるという南海トラフ全域にわたる大地震の影響が大きいと予想される浜岡原発は、このまま廃炉にすべきだと考えています」

東日本大震災時に陣頭指揮をとり、浜岡原発(静岡県)を停止させた菅直人元首相はこう語る。

 

4月11日、原発再稼働を推進する『エネルギー基本計画』が閣議決定された。原子力規制委員会は川内原発(鹿児島県)の新規制基準の適合審査を優先的に行い、今夏にも再稼働が見込まれている。また、2月14日には中部電力から浜岡原発4号機の適合審査の申請書が提出されている。

 

「近いうちに3号機も申請を出すようです。しかし浜岡原発は、30年以内に87%の確率で起こるという、東海地震の予想震源域のほぼ中央にあります。そんな危険な場所にある“世界一危険な原発”が再稼働するようなことがあれば、日本全国の原発が基準をクリアして、再稼働するおそれがあります」

 

こう憤るのは長野栄一さん(93)。’97年秋より「浜岡原発を考える静岡ネットワーク」(以下浜ネット)を立ち上げ、’02年に「浜岡原発とめます本訴の会」代表を務め、現在に至るまでの12年間、中部電力を相手に浜岡原発の稼働をめぐる裁判で争っている。

 

浜ネットが、裁判というアクションを起こしたのは、’01年11月7日、1号機での事故がきっかけだ。

 

「原子炉の冷却に必要な配管が爆裂したと思われる事故がありました。鉄の扉が吹き飛ぶほどの衝撃だったようです。絶対に起こらないといわれていた事故が起きた。こんな危ないもの、少なくとも『大地震が起こるまで止めさせよう』と裁判を起こしました」(原告の1人である佐野けい子さん・65)

 

裁判では、京都大学原子炉実験所の小出裕章助教授の資料も提出された。小出助教授は、「あくまでもシミュレーション。気象などさまざま条件を考慮して得た一つの結果」と前置きして、浜岡で過酷事故が起きたときのケースを語る。

 

「ほんの8時間ほどで放射能が東京を覆います。晩発性がん死者は数百万人にのぼり、急性障害による死者は2万人以上という結果でした」

 

長野さんも「浜岡」という地域の特性を危惧する。

 

「福島原発の事故でいまだ常磐線が全線開通されていませんが、浜岡原発で過酷事故が起きた場合、東名高速も東海道新幹線も使えなくなります。東京と大阪の中心にあり、日本の物流の大動脈がストップすれば、日本経済が大打撃を受けます」

 

‘07年の一審は原告の全面敗訴。現在、裁判は東京高裁に移され、原告は引き続き原発の廃炉を求めるために闘っている。

 

「昨年、浜岡原発に視察に行き、職員がどれだけ原発が安全かを冗舌に語っていたのに、どうやって避難するのかを聞くとパタッと話が止まって『避難は国や県で考えてもらわないと』と答えました。津波や自身は防げないから被害を小さくする努力は必要。でも、原発災害は原発を止めれば防げます」(菅元首相)

 

長野さんら地元の訴えを、電力会社や国はどう聞き入れるのか。

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