「人生100年時代」とは、裏を返せば「生涯労働時代」。そこに拍車をかけるように政府から打ち出された「70歳定年制」案の裏には、さらに生活を苦しめる恐怖の未来が……。
「生涯現役社会の実現に向け、継続雇用年齢を65歳以上に引き上げることの検討を開始する。安倍内閣最大のチャレンジである“全世代型社会保障”への改革を議論したい」
安倍晋三首相は10月5日、自身が議長を務める「未来投資会議」のなかで、このように宣言した。定年を70歳へ引き上げるため、’20年の通常国会に関連法案を提出することを目指すという。
さらに15日の臨時閣議では、消費税率を’19年10月1日から、予定どおり10%に引き上げることを表明した安倍首相。そこでも、「消費税増税による増収分は社会保障制度への転換に充てる」と、増税への国民の理解を求めた。
この政策について、“からくりがある”と指摘するのは経済評論家の加谷珪一さんだ。
「70歳に継続雇用年齢が引き上げられれば、5年ぶん現状より収入を多く得ることができるとも考えられます。しかし、裏を返せば、政府は『70歳まで年金は支給しない』という政策を掲げたも同然なんです」
残業が多いときで月130時間を超えていた68歳男性警備員が、今年4月、夜勤中に亡くなり、遺族が労災申請を行ったという報道もあった。
高齢労働者も“過労死”してしまうという以前では考えられなかった時代に突入したいま、仮に10年後に「70歳定年制」の関連法案が施行された場合、50~60代夫婦の生活環境はどのように変わるのだろうか。その未来と防衛策を加谷さんの解説で見ていこう。
■年金は現在の「見込み額」から2割カットに
「当初は60歳から年金支給でしたが、’18年度中に65歳支給へと移行するための最終段階がスタートします。移行が完了して間もなく、政府と財務省は、68歳に引き上げるでしょう。68歳支給に完全に移行した段階で、今度は70歳支給になるわけです。そのうえで、いまの50代が実際の受給年齢を迎えたときには、現在の見込み額よりも少なくなることを想定しなければなりません」
65歳から受給した場合と、70歳から受給した場合の「厚生年金」「国民年金」受取額を加谷さんが比較したグラフを見ると、後者の額がかなり少ないことがわかる。
「政府は68歳、70歳に支給年齢を引き上げた際には、月あたりの支給額を増やすと言っています。しかし、現在の年金財政や、将来の高齢者人口から見ても、そうなる可能性は非常に低い。受け取る年金は、2割ほど減額されるとみるべきです」
増額措置が取られず、65歳時点での平均余命(男性84歳、女性89歳)まで生きた場合、年収400万円の夫と専業主婦の世帯であれば、65歳支給時と比べると、厚生年金ではおよそ1,200万円ほど減額される試算結果に――。
「年金収入のみで生活費をまかなうことは難しいため、確定拠出年金(iDeCo)などの投資は貯金としてやっておくべきです。現行のiDeCoでは60歳以降は加入・運用できませんが、70歳に定年が引き上げられれば、加入できる年齢の上限も引き上げられる可能性があります。そうなればさらなる増額も見込めるでしょう」
■住宅地の価格はダダ下がり……「持ち家」が損になる時代に
「高度成長期やバブルまでのサラリーマン世帯の住まいは、圧倒的に『持ち家』志向が強かったといえます。しかしここ最近では、都心型を中心にマンションの価格が高騰していて、特に郊外の住宅地は逆に価格が下落、今後もその傾向は続きそうなんです」
老後のマイホームのためといって、地方に一戸建てを購入することはリスクが高く、ローンの返済が苦しくなったときのために、いくらで売却できるかを慎重に考えるべき、と加谷さん。
「高額な都心のマンションの購入もリスキーといえます。いくらで売却できるか、を想定しなければいけないことは一軒家と同じ。利便性がいい都心の賃貸マンションをついのすみかにすれば不動産での失敗はないのですから、そういったライフスタイルを目指したほうがよいかもしれません」