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「正直、子供が生きていられるかどうかわからなかったので、大きく育ってくれて本当に嬉しいです」

 

自力で母乳も飲めるようになった成長ぶりに、男の子の母親(30)は、そう喜びの気持ちを語ったという。

 

2月20日、男の子の赤ちゃんが慶應大学病院を退院した。彼が生まれたのは6カ月前の昨年8月下旬。妊娠24週での出生で体重はわずか268グラムしかなかった。

 

アメリカのアイオワ大学のデータベースによれば、世界でこれまで300グラム未満で誕生し、元気に退院できた赤ちゃんはたった23人だけだという。今回、慶應大学病院を退院した男の子は世界でも24人目、男児のなかでは“世界で最も小さく生まれた赤ちゃん”だったのだ。

 

慶應大学病院は’99年に289グラムで出生した女児、06年に265グラムで出生した女児を元気に退院させたという実績もあった。世界でも24人しかいないうちの3人の200グラム台赤ちゃんたちを救ってきた “奇跡の新生児病棟”なのだ。

 

「私たちもニュースを見て驚きまました。268グラム、それも男の子って奇跡的ですね」

 

そう語るのは、東京都内に住む本山明美さん(55)。明美さんが長女・幸香さん(19)を出産したのは’99年のこと、体重は289グラムだった。

 

「幸香のときは担当のお医者さまから“女の子だから助かったんだよ”と、言われました。当時は“日本一小さい赤ちゃん”でしたが、7年後に、もっと小さい赤ちゃんが生まれて抜かれてしまいました」(夫の良久さん・62)

 

今年6月には20歳の誕生日を迎える幸香さんも、出生直後は慶應大学病院・新生児集中治療室(NICU)で過ごした。

 

「来年は成人式ですので、先日、京都に行って着物を作ってきました。毎日30分ぐらいずつかけて会社に通勤していますが、仕事は楽しいです」(幸香さん)

 

いまでは笑いが絶えない家族3人の生活。しかし20年前は不安な日々を送っていたという。

 

「私が妊娠中毒症になり、23週で帝王切開を勧められたんです。ショックでしたけど、“お腹から出すことで、この子の助かる可能性が生じるのなら”と決断しました。当時は慶應大学病院でも最小が350~400グラムで、先生からも『未知の領域です』と言われました」(明美さん)

 

当時、明美さんが書いていた育児日記には、体重の変化や呼吸数など詳細に記録されている。

 

《9月21日 719グラム 今日声を聞いた。とてもうれしい。酸素、鼻より入れる。世界一カワイイ》

 

NICUでの生活は医師や看護師たちが支えてくれた。

 

「毎月、先生たちが幸香の誕生会をやってくれたのです。看護師さんが絵を描いて、それに幸香の手形や足形をつけてくれていました。『生後1カ月の誕生日おめでとう』『2カ月の誕生日おめでとう』って。今回退院した男の子のお母さんも、あまりストレスをためずにがんばってほしいです。病院の先生たちだけではなく、周りの方たちのお力も借りて、自分1人で抱え込まないほうがいいと思います」(明美さん)

 

幸香さんのいまの夢は「パソコンを使えるようになること」「成人式を迎えたら両親とお酒を飲むこと」だという。

 

“世界で最も小さく生まれた男の子”は20年後、どんな夢を描いているのだろうか。

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