今月5日、厚生年金の加入条件をクリアしているのに加入せず、国民年金のままになっている“加入漏れ”が推計で156万人いるとわかった(厚生労働省)。厚生年金の加入漏れについて、経済ジャーナリストの荻原博子さんが解説してくれた――。
そもそも公的年金には国民年金と厚生年金があります。国民年金は、20歳になると全国民が加入する基礎年金で、厚生年金は基礎年金に上乗せする構造です。厚生年金に加入すると、老後の年金額が多いなど有利な点があります。
厚生年金の加入条件は、会社の労働時間の4分の3以上働くことです。たとえば社員が週40時間働く会社で、週30時間以上働く方は全員、パートでも加入できます。また’16年10月からは、従業員501人以上の会社で、週20時間以上、月収8万8,000円以上などの方も加入対象になりました。年収に換算し“106万円の壁”と呼ばれます。
さらに’18年4月からは、従業員500人以下の会社でも労使で合意すれば、加入できます。
国は年金を支える加入者を増やしたいのでしょうが、厚生年金の保険料は労使折半。経営が厳しい、保険料負担を抑えたいなどの理由で、加入逃れの疑いのある事業所は約40万件に及ぶといいます。
加入漏れには、おおよそ2つの事情が絡んでいます。
1つは、会社員の妻がパートで働く場合(男女を入れ替えても同様)。もともと、夫に扶養される会社員の妻は、保険料を払わなくても国民年金の第3号被保険者です。
それが月収8万8,000円で厚生年金に加入すると、保険料は月約8,000円。老後の年金が増えるより、今の手取りが減ることのほうが困ると考える方もいるでしょう。
もう1つは悪質です。給与明細では年金保険料が天引きされ、働く方は厚生年金に加入済みと認識。でも実際は、会社が届けを出さず加入していないケースです。保険料は会社がネコババすることも。
被害者が会社員の妻なら、第3号被保険者のままで老後の年金は増えません。また、自営業の妻が会社に入り厚生年金に加入したと思って、それまで納めていた国民年金保険料をやめてしまうと、未納になり老後の年金が減ってしまう危険性もあります。不安な方は年金事務所などにお問い合わせを。
いっぽうで最近は人手不足。パートの待遇改善も進んでいます。
たとえば、外食大手の「ワタミ」は今年10月から、パートにもボーナスを支給します。イオンのプライベートブランド商品を作る「イオントップバリュ」は、子ども向け教育手当を時間給に上乗せします。また、カラオケの「シダックス」はパートの定年制を廃止。70歳超でも働けるようにしました。
今後、国は501人以上の企業の加入条件を中小企業にも広げ、今秋以降には、月収を8万8,000円から6万8,000円に引き下げる議論を始めるといわれています。加入対象はますます広がっていくでしょう。
だったら保険料負担を避けず、106万円の壁を超え、しっかり稼いではいかがでしょう。売り手市場のうちに、条件のよい職場を探してみるのもいいと思います。