「年金不安が広まっていますが、年金受給を控えた50代の人でも、自分が受け取れる年金の手取り額を知っている人は少ないのです。実際に年金を受け取ってみて“こんなに引かれるの?”と愕然としたという話はよくあります」
そう解説してくれたのは『サラリーマンのための「手取り」が増えるワザ65』(ダイヤモンド社)の著者で、「生活設計塾クルー」取締役の深田晶恵さんだ。「ねんきん定期便」で将来もらえる年金額を知っているから大丈夫、という人こそ要注意だ。
「1年半前に埼玉県から、都心のマンションに引っ越しましたが、前年より3万円も手取り額が減りました。年金は全国どこでも同じ額が受け取れると思っていましたのに……」
と語るのは東京都在住の70代の女性。深田さんが解説する。
「年金の手取り額は、額面の年金収入から、社会保険料である国民健康保険料と介護保険料、そして所得税や住民税を引いたものになります。じつは自治体によって社会保険料が大きく異なるので、同じ年金額でも、住んでいる自治体で、手取り額に差が出てくるのです」
そこで本誌では、深田さんの協力を得て、全国の県庁所在地ごとの年金の手取り額を調査した。年金額は、一般的なサラリーマンの受給額とされる月約22万円、年間で265万円を基準とした。
「手取り額が少ない県庁所在地」のランキング上位5都市、下位5都市は次のとおりだ(※「社会保険料」は国民健康保険料と介護保険料の合計、「税金」は所得税と住民税の合計。試算の前提は、65~75歳の年金のみで生活している男性で、妻(65~74歳)を扶養している。国民健康保険料は世帯(夫と妻)の合計額、介護保険料は夫だけにかかる)。
【1位】大阪府大阪市=手取り額:224万2,495円/社保+税金合計:40万7,505円
【2位】愛媛県松山市=手取り額:224万3,480円/社保+税金合計:40万6,520円
【3位】島根県松江市=手取り額:224万6,970円/社保+税金合計:40万3,030円
【4位】佐賀県佐賀市=手取り額:225万4,024円/社保+税金合計:39万5,976円
【5位】熊本県熊本市=手取り額:225万7,912円/社保+税金合計:39万2,088円
【43位】栃木県宇都宮市=手取り額:231万500円/社保+税金合計:33万9,500円
【44位】神奈川県横浜市=手取り額:231万4,590円/社保+税金合計:33万5,410円
【45位】千葉県千葉市=手取り額:231万6,510円/社保+税金合計:33万3,490円
【46位】埼玉県さいたま市=手取り額:231万8,300円/社保+税金合計:33万1,700円
【47位】静岡県静岡市=手取り額:232万1,900円/社保+税金合計:32万8,100円
年金の手取りがもっとも少ないのは大阪市で224万2,495円。一方、もっとも多く受け取れるのが静岡市の232万1,900円。その差は1年間で約8万円(7万9,405円)。95歳まで生きた場合、30年間で両市の差は240万円にもなる!
「大阪市は、大企業本社の首都圏への移転、失業率の高さなどの問題を抱え、財政状況が低迷していました。それが社会保険料に反映されているのです。特に“格差”の最大の要因となるのが、国民健康保険料。ランキング上位の県庁所在地ほど、高い傾向にあります。もっとも高かった松江市(23万9,730円)と、もっとも安かった静岡市(16万1,100円)で、7万8,630円もの差が出ました。国民健康保険料の差は、医療機関を多く利用する高齢者の割合や、税収などが関係しているとみられます」(深田さん)
社会保険料が高くなれば、税金は多少安くなる。これは、社会保険料を控除した(差し引いた)あとの金額に、税金がかかるためだ。
「このランキングは、おおまかな目安にはなります。ただ、収入が低ければ軽減措置などで負担率は低くなり、受け取る年金が高ければ、負担率は収入に合わせて高くなる。年金額265万円のケースということを忘れないでください。また同じ都道府県でも市区町村によって、手取り額は異なります」