「75歳以上の高齢者の医療費自己負担額(窓口負担額)は、現行1割。しかし、これを2割に引き上げる法案を、政府が国会に提出する準備を進めていることが11月ごろから報道されました。じつは高齢化が進む日本において、医療費が抱える財政問題は、年金と同じくらい“深刻”。75歳以上の後期高齢者だけでなく、すべての国民にとって自己負担額の引き上げは、避けて通れそうにないのです」
そう指摘するのは、経済評論家の加谷珪一さん。冒頭の法案については、12月4日に、来年1月の通常国会に提出することが“見送りになった”と一部で報じられた。だが、負担額引き上げの見送りは“一時的”なものにすぎないと加谷さんは語る。
「’17年度の国民の医療費は総額で43兆710億円。政府の年間の基本的な予算である『一般会計』の予算規模は100兆円ですから、“国家予算の約半分”と考えると、どれほど巨額かがわかります。このうち半分を国民からの保険料収入でカバーし、残りを窓口での自己負担と一般会計などからの税金で補填しているのですが、保険料を納める現役世代の人口減少が止まらない。しかし、医療費がかかる高齢者の数はどんどん増えていく……。もはや何かしらの施策をとらなければ、“いつでも、だれでも医療のサービスが受けられる”という医療制度は維持できない、と政府も認識しているはずです」
※70歳以上が3割負担になるのは、「課税所得」が145万円を超えた場合
来る負担増時代に備えて、「いまからでも見直せることがある」と話すのは、社会保険労務士の石田周平さんだ。
「70歳以上の人について、現行制度で負担額を“過払い”しているケースがあります。現行では、課税所得(総所得から必要経費や各種所得控除を引いたもの)が145万円を超えると、70歳を超えても自己負担額は3割。しかしそのなかには、各種所得控除の申請がされていないことで課税所得が145万円を超えたままになってしまい、本来であれば2割、もしくは1割負担のはずなのに、3割負担に区分されてしまっている人がいるんです」
リタイア後、パートや自営業などで定収入があるような高齢者はこのケースに当てはまりがち、と石田さんは注意を喚起する。
「70歳以上でも給与所得がある人が世帯にいる場合は、送付される『住民税の納税通知書』を確認してみてください。表記されている課税所得が145万円以上だった場合、(1)扶養控除、(2)生命保険料控除、(3)医療費控除などが申請されているか見直してみる必要があります。控除されていなかった場合は、確定申告しましょう。また、収入が一定以下であれば、同じく自己負担割合を下げられる『基準収入額の適用申請』制度もありますので、申請できないか、各自治体の窓口で相談しましょう」