「紀元前4世紀の古代ギリシャには、ヘロストラトスという“自分の名前を後世に残すがために神殿を燃やした人物”がいます」
こう話すのは、古代ギリシャ研究家の藤村シシンさんだ。ヘロストラトスが燃やしたのは最も美しい建造物と伝えられるアルテミス神殿。彼は“即処刑”となったという。
「さらにいわゆるダムナティオ・メモリアエという“記録抹消刑”に処されました。この刑によってヘロストラトスの名前を口頭で伝えたり、書面に残したりすることが禁止に。そうして後世に彼の名が残るのを阻止しようとしたんです。
ですが、現代にも彼の名前は残っています。当時は名前を書かずに事件のみが伝えられていたのですが、いっぽうで記録抹消刑を無視してその名も残す人たちがいたためです」
ここで気になるのが、「ヘロストラトスはどんな人?」ということ。しかし、「生前の様子をつづった資料は現存していません」と藤村さんは明かす。
「『有名になりたい』という気持ちが強かった彼に対し、社会的地位の低い人といったイメージを持つかもしれません。ですが現存資料はありませんから、とてつもない権力者だったのかもしれません。彼がどうしてそこまでして有名になりたかったのかも、いまだ不明です」
また古代の迷惑行為をラインナップした「有名言行録(著:ウァレリウス・マクシムス)」という人名録があり、そこにも“迷惑系”が記載されているという!
「パウサニアスという人物が紹介されています。彼は『有名になるにはどうしたらいいか』と考えていたところ、哲学者のヘルモクレスから『有名人を殺せばいい。その名誉が自分に返ってくるから』とのアドバイスをもらいました。
そうして彼はマケドニアの王様を殺してしまったんです。パウサニアスはのちに暗殺されました」
ヘロストラトスやパウサニアスといった古代の“迷惑系”たち。そして釈放後、Twitterに《一日でも早く社会貢献したい》と投稿したへずま氏。藤村さんは新旧の“迷惑系”を比較し、こう結ぶ。
「ヘロストラトスもパウサニアスもすぐに亡くなったので、生前に反省する機会がありませんでした。いっぽうへずまさんは歴史上に残る“迷惑系”とは違い、まだ重罪ではありません。
YouTubeアカウントは凍結されましたが、世間ではへずまさんの話題がいまだ尽きません。つまり、記録抹消刑にもなっていないということです(笑)。
だから、彼が社会貢献を目指すのはとてもいいことだと思います。先人たちと違って、まだイチからやり直せるのではないでしょうか」