奥田さんは、コロナ禍で仕事や家を無くした人用の支援付きワンルームマンションを全国に用意するため、今年5月クラウドファンディングを実施。なんと約1億1500万円が集まった。
「寄付してくださった方が1万289人で、一口の寄付金額3万円以下の方が98%なんです。つまり“気の毒な人を助けよう”というより、“いつなんどき自分が同じ立場に立たされるかわからない”という危機感の表れだと思います」
現在、この資金を全国の支援団体に振り分けて、約130室を確保した。
「北九州の私のところでは、女性も入居しています。先日は、いわゆる接客を伴う飲食店で働いていた20代の女性が入りました。コロナ禍で店が閉店し、寮を追い出されてしまったそうです」
奥田さんは、こうした住宅セーフティーネットの仕組みを、政府も巻き込んで構築するため、国交省や厚生労働省などに働きかけを行っている。
「人は本当に追い詰められたら、なかなか『助けて』と言えないものです。ふだんから言っておかないと。だから私はいつも、日頃から『助けて』のインフレを起こしておきましょうと言っています。日頃から『助けて』と頼りあえる関係をつくっておくことが大切です。
64歳のホームレスの女性も、弟さんがいたが頼れなかった。頼れば“家族の責任”にされてしまう社会だから。でも、電話番号を書いたメモは大事に持っておられたそうです。彼女がどんな気持ちだったか。それを“想像”することこそが“知性”だと思うんです」
残念なのは、周囲の人たちがバス亭に座っている彼女を心配して声をかけていたが、救えなかったことだ。
「彼女のケースは大変残念でしたが、やはり『だいじょうぶですか?』と声をかけることからしか関係は始まりません。たとえ『ほうっておいて』と言われても、です。あなたのことを気にしているよ、と。人の気持ちを動かすのは人ですから。そして、できるだけ地域の民生員や自治体の窓口につないでほしい。平成27年に“生活困窮者自立支援制度”がスタートし、住居を確保する支援金や就労支援などを受けられるようになっています。地域ごとに良心的な支援団体もあります。日本は、まだまだ捨てたものじゃありません。大丈夫、必ず助けてくれる人がいますよ」