「日本には病院が8,300施設ありますが、そのうち新型コロナウイルスに対応できる病院は1,800ほどでしょう。そのほとんどがすでにコロナ患者を受け入れているはずです」
河北総合病院(東京都杉並区)などを運営する河北医療財団理事長の河北博文さんはこう話す。
1月18日に始まった通常国会で、政府は感染症法を改正する方針だ。現行法では、都道府県知事らは病院に対して、コロナ患者受け入れの「協力要請」ができることになっている。しかし、新型コロナの受け入れ病床が不足していることから、より強い「勧告」ができるようにしたうえで、応じない場合は病院名まで公表できるようにする方針だという。
1月15日、コロナ対応病床がひっ迫する事態が続いている大阪府で、吉村洋文知事が新法への期待をこう語った。
「民間でコロナを受け入れている病院の率は低いです。客観的な数字上明らかです。国会における法改正を速やかにお願いしたい」
確かに、’20年11月時点での厚労省調査によると、コロナ患者を受け入れ可能としている民間病院の割合は、公立病院や公的病院と比べて著しく低くなっている(急性期病院の場合)。しかし、河北理事長はこう指摘する。
「コロナ患者を受け入れるには、(1)救急を引き受けている、(2)急性期一般病棟を有する、(3)ICU(集中治療室)などの高度医療が可能、という3点が必須になります。病床数が300床以上の規模の病院でなければ難しいでしょう。すでに、そうした病院は民間病院を含めて、ほとんどがコロナ患者を受け入れているはずです」
病床数が300以上の病院は、公的や民間を問わず、8,300施設のうちの17.6%だけだ(厚生労働省「令和元(2019)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況」より)。
河北総合病院(分院も含む)は全407床を有する大規模病院だが、うち101床をコロナ対応のために割り当てた。
「しかし、実際に受け入れられる人数は43人(1月21日現在)で、常に『満床』の状態です。感染拡大防止のため『4人部屋は1人で使う』とか、職員配置上の問題で数が制限されるのですが、それでもかなり多いほうです」
病床数が1,200床を超える東京大学医学部附属病院でも、コロナ患者の受け入れ可能人数は40人程度にすぎないという。これまで同院では、1,000人以上のコロナ陽性者(疑いを含む)を受け入れており、亡くなったのは25人だという(1月21日現在)。
医療従事者が懸命に闘っていた昨年7月、政府が始めたのが「Go To キャンペーン」だ。
新規患者数が一時的に減少した昨年の9月から10月。寒さと乾燥によって感染者がふたたび増える懸念のある冬にむけて、医療体制の構築とさらなる感染者数の抑制のための千載一遇のチャンスだった。しかし、政府が行ったのはGo To キャンペーンのさらなる拡充。ちなみに、大阪府では“都構想”の是非を問う住民投票が11月1日に行われている。
感染者が急増し始めた11月20日にはGo To トラベルの停止を東京都医師会会長が求めたが、菅総理が停止を表明したのは12月14日、停止されたのは12月28日から。河北さんはこう憤る。
「うちの看護師に聞いても、Go Toを使っている者はいませんよ。みな1年近く闘い続けており、疲弊しきっています」
医療スタッフのなかには、「(感染拡大防止のため)家や実家に帰らない」選択をしている人や外での飲食を1年近く自粛している人も多く、「ストレス発散の場がどこにもない」状態だという。
そんな医療従事者をよそに行われた政府の“失策”による、感染爆発と病床のひっ迫。
そのツケを医療関係者に払わせているばかりか、行政は「患者受け入れ率が低い」と、まるで民間病院に“怠慢”のレッテルでも貼り、自分たちの責任を転嫁しようとしているように見える。だが、すでに民間病院は限界に近い状態なのだ。
政府は自らの失敗に向き合ったうえで、医療従事者の声に耳を傾けてほしい。
河北博文◎慶大医学部卒業。米国留学を経て、河北医療財団の理事長に就任。医療機関を中立的な立場から評価する「公益財団法人日本医療機能評価機構」の創設者でもある。
「女性自身」2021年2月9日号 掲載