「ヒマラヤへ――。限界はない」/(C)kaori inaba 画像を見る

「言葉も出ないぐらい驚きました。だって、植村さんの名のついた賞をいただくなんて畏れ多いじゃないですか。そもそも私、植村さんの“追っかけ”なんですから」

 

こう言って笑うのは大阪・心斎橋で美容室を営む、美容師の稲葉香さん(48)。彼女が言葉をなくすほど驚いたのは、世界的な冒険家・植村直己さんの精神を後世に継承するため、自然相手に創造的で勇気ある行動をした人に贈られる「植村直己冒険賞」受賞の報せを受けてのことだった。

 

「ヒマラヤに通う美容師」を自称する稲葉さんは、その肩書き通り、西ネパールの秘境「ドルポ」に何度も通ってきた。そこは四方を5千メートル級の山々に囲まれた標高約4千メートル超の地に村が点在する“ヒマラヤ最奥の聖地”。

 

19年11月、雪に閉ざされる直前にドルポに入った稲葉さんは、翌20年2月末まで現地に滞在。日本人女性として史上初めてドルポ越冬に成功。それらの功績が認められての受賞だった。

 

「20代のころ、植村さんの存在を知り憧れて。消息を絶ってしまったアラスカのデナリ(マッキンリー)に行き、ヒマラヤにも行って。国内でも植村直己冒険館や生家、それに、お墓……もう、完全に追っかけでしょ(笑)」

 

彼女を過酷な冒険に駆り立てたもの、それは、偉大な先人への憧憬だけではない。

 

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