■「もう絶対的にマンパワーが足りない…」
自分の“最後”が近づいたときでも治療を受けることを諦めざるをえない悲惨な事態が、いま東京を襲っている――。
従来から在宅医療を専門にしている田代院長は、これまで自宅で最期を迎えることを選ぶ人の看取りもしてきた。ただ、同じ高齢の方が亡くなるにしても、新型コロナウイルスで亡くなるのとほかの原因で亡くなるのとでは、本人や家族の受け止め方は違うと感じているという。
「みなさんの話を聞いていると、たとえば、悪性腫瘍や性肺炎、または食事が食べられなくなってしまった状態で亡くなるのは受け入れられるけれど、新型コロナウイルスで亡くなるということは受け入れられない、という方が多いように感じています。“この国の無策のせいで……”という悔しさを感じる方が多いようで、心の整理が難しいようです」
自宅療養者の増加に伴い需要が高まる訪問診療だが、このまま感染者が増えれば、訪問診療にも限界が来てしまう可能性がある。
「もう絶対的にマンパワーが足りないです。まず医者。そして訪問してくれる看護師。そして酸素も、薬を届ける薬局も足りません」(田代院長)
感染者が増えるなかで、田代院長は自身のコロナ禍に対する捉え方が、日々変化しているという。
「本来だったら入院すべき中等症患者を“家で診る”という現状に、少し前までは“病院で治療できないなら俺が治療する”なんて思っていました。でもいま思うと僕のおごりでしたね。いまは“こんな災害現場では、縁のあった患者でも僕らが治し切るというのは無理だ”と思っています。保健所から“在宅で深刻な状況の人がいるから診に行って”と言われて治療を始めるだけ。その後の経過観察は、保健所に戻さないともう無理なんです」
とにかく私たちにできることは、感染しないよう自分の身を守ることだ。誰にも命を諦めさせないために――。