念願の青春を手にした“81歳の高校生”人生で初めて夢を持てた
画像を見る 心から楽しい青春を過ごした村田さん(撮影:田山達之)

 

勉強も楽しかった。

 

「授業では、英語もパソコンもやります。どちらも人生で初めて学ぶことでした。得意なのは数学。ずっと商売で、お金の計算やってたからやろか(笑)」

 

大変だったのは、やはり漢字。

 

「書き取りが大変で。読めても、なかなか書けない。いまだに難しいのは『劇』という字やね(笑)。何よりうれしかったのは、担任をはじめ先生たちが、とにかく優しかったこと。わかるまで、手取り足取りで教えてくれはる。だから、私もどんどん質問できました」

 

授業の合間の20分の休憩時間に、ランチルームで友達とおしゃべりするのが、また、楽しい。

 

「学ぶということは、一つ一つ、ものごとがわかっていくこと。入学前はチンプンカンプンだった新聞も、辞書とにらめっこしながら、まぁまぁ読めるようになった。そんなとき、少しだけ前進したなと感じるんです。それが楽しい」

 

昼間の生徒との交流会もあった。

 

「交流会で、孫やひ孫のような若い人から『夢はなんですか』と聞かれて『えっ、夢?』って思ってね。それこそ働きづめで、夢なんてこと、考えませんでしたから。夜間中学に来て初めて夢について考えて。80歳近くなって、夢もないやろと思いながらも考えてみたら、高校に行きたい。できれば大学も行ってみたい。自分はどこまで行けるんやろ、と。そんな希望が芽生えましたねぇ……」

 

村田さんは納得いくまで夜間中学に通い、昨年3月、卒業した。

 

「本当に幸福な時間で、楽しくて、気がついたら9年間、通ってた。皆勤賞といきたかったけど、4年前にインフルエンザで1週間休んだのが、1回きりの欠席でした」

 

卒業式には、着物を着て、髪を結って出席した。

 

4月からは大阪府立寝屋川高等学校の定時制に進学。夢を実現したのだ。

 

「中学と違うのは、とにかく周りが若い人ばかり。10代のなか、80代は私ひとりです。ただ、入学してすぐ、後ろの席の男子と仲よしになってね。『オバチャンいうたら、どつくで!』という最初の会話で打ち解けた。ツカミはオッケーいうやつやね(笑)」

 

コロナ禍の緊急事態宣言で、登校できたのは6月からだったが、高校生活も充実しているようだ。

 

「いちばん困るのが、中学と違って、授業によって教室が変わること。移動時間も5分くらい。場所もようわからん。遅刻やぁって困っていたら、仲よしの男のコが『村田さん、こっちやで』と、連れていってくれるようになりました」

 

孫のような生徒たちの恋愛相談に乗ることもある。クラスの女子とハンバーグを食べに行くのも楽しみだ。村田さんの世界が、またひとつ、広がった。

 

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