かつて青春時代を過ごしたトキワ荘が再現されている 画像を見る

「本当によく再現されています」

 

玄関のたたきをあがるとすぐに続く木製の広い階段を、ゆっくりと上りながら、水野英子さん(81)は感慨深げにつぶやいた。

 

一段上るたびにギシギシとたわむ階段、ミシミシ軋む廊下の薄暗さ、ガスコンロやブリキのタライ、木製の洗濯板が雑然と置かれた共同炊事場、男女共同のくみ取り式和式便所……。隅から隅まで昭和30年代当時の面影が残る。

 

ここは「トキワ荘マンガミュージアム」(東京都豊島区)。

 

手塚治虫、赤塚不二夫、石ノ森章太郎、藤子不二雄A、藤子・F・不二雄、寺田ヒロオといった昭和を代表するマンガ家が青春時代を過ごしたことで、マンガの聖地となった「トキワ荘」が再現されている。

 

水野さんは、ここで暮らした紅一点のマンガ家だ。

 

「『ここに女のコが住んでいたの?』と、何度、驚かれたことでしょう。私はずっとジーパンで過ごしていたから、女のコとして見られていなかったのです」

 

老朽化を理由に、1982(昭和57)年11月末、解体されたトキワ荘が、全国のマンガファンの4千筆もの署名や地元商店街の要望で蘇ったのは、昨年7月7日のことだ。元の設計図も何もない状況で、当時を知る水野さんら、かつての住人の記憶を手がかりに、40年ぶりに再現された。

 

2階の中央に広めの廊下、その両側に四畳半の部屋が並んでいる。

 

「私の部屋は石ノ森さんの部屋の真向かいでした。自分の部屋にいても、後ろを振り返ると石ノ森さんが机に向かって描いている姿が見えるという具合でしたよ」

 

「水野英子の部屋」も、もちろんある。机上には、サジペンが置かれていた。

 

「私が使っていたのはこのサジペンです。Gペンは私の次世代の人たちが使ったのですよね」

 

くるりと部屋を見渡すと、開け放されたドアの先には、石ノ森の部屋がたしかに見える。

 

「とにかくみなさん、ドアも開けっ放し。誰でもいつでもウエルカムだった。私も、赤塚さんのお母さんに『寝るときぐらいは鍵をかけなさいね』と言われて、ああ、そうかと思ったくらいでしたね」

 

水野さんは当時18歳。懐かしそうに目を細めた。

 

「本当に贅沢な時間でした」

 

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