■妊娠検診で風疹抗体が陽性だった理由
ピンクドルフィンさんは、すでにコロナワクチンを打っていた母に、自分も接種を決めたことを報告した。すると、母の口から衝撃の事実が明かされたという。
「母が『ワクチン怖がってるけど、実はお父さんがあなたに打ってたみたいよ』とさらっというんです。それまで私はワクチンを1本も打ったことがないと思っていました。けれど、父は母に黙ってこっそり私にMR(麻しん風しん混合ワクチン)と子宮頸がんワクチンを打っていたんです」
お父さんは母子手帳を最後の最後まで隠していたが、亡くなった後に母が見つけたようだった。確かに高校生の頃、父と病院に行った記憶がある。
実は、妊婦検診で風疹の抗体が陽性だったピンクドルフィンさん。妊婦にとって、非常に重要な風疹抗体の有無。妊娠中に初めて風疹に感染すると、赤ちゃんが心臓などに障害を持つ可能性があるといわれている。女性の場合は、幼児期に風疹ワクチンを打つことで、感染経験が無くても抗体を持っていることが多いと言われている。
「検診を受けたときは『やっぱりワクチンはいらないんだ』と思ってました。でも、その抗体があったのは、父が私に打ってくれたからなんだ——。そう気付いたときには、涙がぼろぼろ出てきました」
陰謀論を客観的にみられるようになった今、当時のことをピンクドルフィンさんはこう振り返る。
「不安が強い人や医療を信じていない人は周りを守るという大義名分のために、頑張ってしまうのだと思います。でも、そんなことは現実の世界では誰も相手にしてくれません。だから、ネット上の仲間の存在に依存してしまうんです。過激なことを言えばより仲間意識も強まるから、思想もどんどん極端になっていきました」
陰謀論を信じていたことで失ったことも多い。
「今も“あんなにコロナ信じてなかったのに”と、馬鹿にされることがあります。学生時代のかけがえのない友人に嫌な思いをさせて、自ら縁を切ってしまったことは、悔やんでも悔やみきれません。でもそれはやってしまったことですから、しょうがない」
しかし、陰謀論から抜け出してからは、現実の世界で新たな友人関係にも恵まれたという。コロナの話をしないでつき合えば、普通に遊びにも誘われる。その事実が、とても嬉しかった。
「陰謀論を信じている人は、自分の論理と違うことは全て“工作員”だと思ってしまうので、洗脳を解くのは本当に難しい。でも、だからこそ私の一連のツイートを読んだ陰謀論者から、“敵ながらあっぱれ”と、リプライがきたときには“届いてはいるんだ”と前向きになれました」
現在は、アカウントを削除したピンクドルフィンさん。彼女の最後のツイートには、ワクチンの2回目接種を無事終えたことや、彼女の一連のツイートを読んだことで陰謀論から目を覚ますことができた人が、少なからずいたことが報告されている。
陰謀論にはまってしまった人が、そこから抜け出して自分や周囲の人を守るきっかけに少しでもなれば——。反ワクチンを広めていた時よりも強い思いが、彼女の投稿にはこめられていた。