■電話がかかってきたので急いで取ろうとして、洗面台のあたりで転び、腰を強打
「その朝は9時ごろに目が覚めて、新聞を3紙、玄関から持ってきてベッドで読んでいました。そのうち電話が鳴ったのに気づいたんです。いったん切れて、もう一度かかってきたので急いで取ろうとして、洗面台のあたりで転んだ。そして腰をひどく打ったんです」
澤地さんが自宅1階で転倒し、第二腰椎を骨折したのは20年5月11日、月曜の午前11時ごろ。携帯電話も持たない独居の彼女は、横転したまま動けなくなった。
「もう痛くて、痛くて、あまりの痛さにちっとも動くことができない……。私はそのまま、しばらく固まっていましたね」
痛さ以外の記憶がまるでないが、結果2時間も、みじんも動けずにいた。6歳下の妹・みどりさん(85)からの電話が、その膠着(こうちゃく)を解いた。その電話は“救いの手”だったはずだが、なぜか澤地さんは「助けに来て」とは言わなかった。
「好き好んでひとり暮らししているわけです。なんでも自分で始末したいのね。それが根本にあるものだから、自分のことで、きょうだいに余波が行くのが許せない」
そこからまた2時間ほど動けずにいると、15時ごろ今度は隣家に住む10歳下の弟・年保さん(81)から電話がかかってくる。
「弟はすぐにかけつけ、『お医者さんに行こう』と言いました。けれど、私は『行かない』と言ったら行かない、頑固なお姉さんなのね。結局、病院に行ったのは翌朝です。ちょっと待ってね、手帳を取ってくるから……」
病院に行ったのは翌朝。そこで第二腰椎の骨折が判明した。さぞ驚いただろうと問うと、澤地さんはあっけらかんと言うのだ。
「痛さから、ヒビくらい入っているだろうと思っていました。骨折も初めてでなく、数年前に第一腰椎を折っていて、左膝は12年にと、何度か折っていますから」
ところが病院の入院病床は空きがなく、帰宅して静養するしかすべはなかった。激痛に耐えながら、なんとかタクシーで帰宅したものの、それからの毎日をどう生活していったというのだろうか。