「私は死ぬ準備ができていないんです」と澤地さん 画像を見る

高齢者ともなれば、転倒して骨折すると、寝たきりになってそのまま衰えていく場合も多い。「要介護4」の言葉に恐ろしさを感じる人も多いだろう。だが作家の澤地久枝さん(91)はわずか3週間で、寝たきり状態から抜け出したという。

 

「90歳の人が腰の骨を折ったら、社会復帰は難しいのではないでしょうか。でも私は、先月は世田谷、先週は武蔵野と行きたい美術館に行き、絵や写真を見ている。この書斎に上がってきて、原稿を書こうと思っている。つまり、死ぬ準備ができていないんです」

 

この9月に、卒寿によわいを一つ加えた澤地さんはグレーがかった髪を几帳面に上げており、眉は細めにしっかりと引いている。コロナ禍で「マスクをするから口紅はしない」と言うが、細部にまで気を配った身だしなみで背筋をピンと張り、先ほどからお茶の一滴も口にせず語り続けている。

 

澤地さんは72年、41歳でノンフィクション作家デビューすると、78年に『火はわが胸中にあり』で日本ノンフィクション賞、『滄海よ眠れ ミッドウェー海戦の生と死』(84年)および『記録 ミッドウェー海戦』(86年)で菊池寛賞を受賞。昨今も健筆をふるっていた。

 

そんな澤地さんが、昨年5月、ひとり暮らしの自宅で転倒して、腰椎を骨折。そのまま寝たきりとなり、「要介護4」の認定を受けていたのだという。歩行はもちろん困難で、ときに家政婦やヘルパーさんに助けてもらい、おむつもつけた。

 

それなのに、いま澤地さんは寝室と仕事場を結ぶ階段をその足で上り下りする毎日だ。リハビリだと言い聞かせ、少しずつ自分で動き、結果的に澤地さんの要介護度4の寝たきり状態は、わずか3週間足らずの超短期だったことになる。

 

「特段、肩に力が入っていたわけではないんです。だっていつ人生の終わりが来ても、おかしくない時期を生きているということは、わかっていますから。でも振り返って言えるとすれば、おむつをしていた10日のあいだに『もうダメだな』と思っていたら、ダメだったでしょうね……」

 

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