■2歳半でカートを始めて 鷲くん「僕にはこれしかないから」
鷲くんがカートに乗り始めたのは2歳半。一般的には、子供が三輪車のペダルをやっとこげるようになるとされる年ごろだ。当の鷲くんは「まったく覚えてません」と笑うが、父・謙さんによれば「最初からわりに違和感なく乗れていた」という。
「それ以前も、毎週サーキットに連れていって、エンジンの音にも慣れさせてましたし、レンタルの二人乗りカートで、僕の運転で隣に乗せたことも。だから、本人は自分1人で運転できることが面白かったんじゃないですか」
以来、謙さんはネットなどでさまざまな情報を集め、ドライビング技術や車体の整備方法、それにレーサーになるための日々のトレーニング法も勉強。専属のコーチ兼メカニックとして、息子の成長を支え続けた。その父子の姿はまるで、かつて漫画やアニメで一世を風靡した「巨人の星」の一徹&飛雄馬のようだ。
「始めた当初は1日1キロ、いまでは4キロのランニングを日課にさせていて、レースを走り抜く体づくりをさせてます。鷲が4、5歳のころにはテレビを見るときは必ずバランスボールの上に膝立ちか、スクワットをしながら、なんてルールも以前は課してましたね」
ときに父は指導に熱が入りすぎて、息子に轢かれて転倒、1週間の入院を余儀なくされたこともあった。いっぽう、息子も練習中の事故で足を骨折するという経験もした。そんな、苦労を重ねながら、鷲くんはカートレーサーとしてみるみる成長。小学校に上るころには上級生たちを相手に、何度もレースを制するようになった。そして小6。全日本カート選手権のジュニア部門でチャンピオンになり、モータースポーツの本場、ヨーロッパでの武者修行にも打って出た。そして今年。先述したように、ついにシニア部門でシリーズ王者に。
「レースで結果が出なかったりする時期は、毎日のトレーニングも嫌になって、もう辞めたい、って思うこともあったけど。それでも続けてきたのは、やっぱりカートが好きだから。それに僕にはこれしかないから。レースで生きていくんだって覚悟してるので」
ここまで明確に、自分の将来を思い描ける中学生も珍しいのではないか。年間30戦近いレースと日々のトレーニングに忙しい鷲くんは、同級生と遊びに出かける時間もほとんどない。家計は多額の出費がかさむカートが最優先だから、皆が持っているゲーム機を買ってもらうことなど、夢のまた夢だ。
「でも、自由に楽しそうにしてる友だちのことを、羨ましいとは思いません。将来の目標がはっきり決まっているほうが、自分は毎日、頑張ることもできるから」
中学3年になる来年は、国内カートレースの最高峰クラスにエントリーする予定の鷲くん。記者が「高校生になる再来年以降はヨーロッパに?」と水を向けると、未来のF1レーサーは目をキラキラさせながら、またキッパリと言い切った。
「はい、行きます!」