■親3人の子育てで、ジジ、ババは6人に。「子育てに関われてよかった」思いは共通
彼女と暮らすうちに、いつしか「子ども欲しいね」という話が出るようになった。冗談まじりに「僕、まだ子宮あるから産めるかな」などと話したこともある。
「ホルモン注射を打ち忘れると、途端に生理になっちゃうから、可能性はゼロではないけど、でも、やっぱり想像つかないな」と、彼。「自分で産みたいけど、全く知らない人から(精子提供)っていうのは怖いな」と、彼女。
そんな話をしているうちに、ゲイの友人で、信頼関係のあるゴンちゃんの顔が浮かんできた。ゴンちゃんは5歳年上の元広告マン。10年ほど前に知り合ったLGBTQ+活動の戦友的な存在だ。
そんな彼と子どもの話になったのは、共通の友人のレズビアンカップルが妊活を始めたからだ。お互い子どもが欲しいという思いがあった。
「僕たちもゴンちゃんも、パートナーとは子どもが持てないという状況は同じなのに、僕たちだけが親で、彼は親じゃないというのは、フェアじゃないと思うんです」
3人で育てるという基本路線のうえで、妊活に入った。杉山さん35歳、彼女は32歳、ゴンちゃんは40歳。1年間は人工授精を試し、さらに確率の高い顕微授精に移って2回目で、妊娠に成功。
杉山さんの両親に報告すると、
「おめでとう! でも、私たちの孫って呼んでいいのかしら」
と、戸惑ったが、あれほど結婚に反対した彼女の両親の喜びようは想像以上だった。義父は「文野を選んだ時点でうちにはそれはないと思っていたからな」と涙した。
妊活に、フィジカルには関われない杉山さんも、彼女のつわりを労り、毎日、おなかのなかの子に話しかけて、誕生を待ちわびた。
出産に立ち会い、産声を聞いた。
「生まれた瞬間、血のつながりなんて関係ないなって思いましたね」
18年11月に生まれた長女の名前は「あるがままに」から「ある」。20年12月生まれの長男は「きのむくままに」から「きの」。
親3人の子育てが始まった。養育費は3人で分担。杉山さん、ゴンちゃん、彼女で2対2対1だ。
「彼女は妊娠・出産時の母体のリスクがあるし、子育てが仕事に響くこともありますから」
ファースト抱っこをしたのは、杉山さん。ファースト沐浴をしたのは、ゴンちゃんだった。呼び名は「パパ」「ママ」「ゴンちゃん」。妊娠を機にアパートを出て、杉山家での2世帯同居も始まった。
子どもたちは0歳から保育園に預けたが、ゴンちゃんは週1〜2回の保育園のお迎えと、土日のどこかで半日、公園に連れていくのが、現在の基本のルーティンだ。
「最初は、ゴンちゃんに『来られるときに来て』と言っていたんですが、かえって都合がつかず、1〜2カ月、会えないことがあって。ゴンちゃんが来ても、子どもたちは『この人、誰?』って。それで、ゴンちゃんのお迎えは定期的にしようということになったんです。
実際の生活は大変です。役割分担やペースが合わず、全員がイライラすることだってあります。
ただ、揺るがないのは、子どもはかわいいし、子育てに関われてよかったということ。3人共通の思いです。ジジ、ババは6人になるんですけど、6人とも楽しそうで、よかったなと思っています」
昨年11月、あるちゃんの3歳の誕生日には、コロナもあってなかなか会えなかったゴンちゃんの金沢の両親も来てくれて、初めて3家族が全員、集合できた。
「親たちも、子どもたちのユニークな関係性なんて、孫がいるともはや関係ないみたいですね」
杉山さんの母・麗子さん(69)が電話取材に応えてくれた。
「LGBTQ+に関して、もう少し早く、もっと理解してやっていたらという思いはいまだにあります。文野の生き方を見れば、あの子のした選択は間違っていなかった。文野とパートナーが決めたことは、これからも受け入れていきます」
この両親がいてくれたからこそ、杉山さんのいまがある。
きのくんの満1歳の誕生日には“一升餅”のお祝いの写真が、杉山さんのツイッターにあがった。12月16日には、杉山さんとあるちゃんのディズニーランドでのツーショット写真が掲載された。
《子連れでディズニーに来る日が来るなんて。なんだか感慨深いな〜》
そのコメントに、結婚も子育ても想像できなかった20代までの彼自身への思いがあふれていたーー。